ーー

あれから――

 

一年が経った。

 

季節はまた同じ春を迎えていた。

 

あの日の出来事も、あの夜の約束も
鮮明すぎるほど胸に残ったまま

 

でも私は今――

 

蓮音を抱いて、この道を歩いている。

 

 

「ほら、蓮音」

 

「パパのところだよ」

 

小さな手が
私の髪を無邪気に掴んで引っ張る。

 

「いったぁ…」

 

「もう、ママの髪ひっぱらないの」

 

 

蓮音は
少しだけ蓮に似た目元をしていた。

 

泣いた顔も
眠ってる顔も

 

どこかで蓮の面影を重ねてしまう。

 

ーー

 

今日は
蓮の一周忌だった。

 

不死蝶會の仲間たちも
皆ここに集まってくれていた。

 

 

墓前の前に並ぶ、いつもの顔ぶれ。

 

圭悟、哲、冬馬――
他の幹部たちも皆、あの日のまま変わらぬ顔で立っていた。

 

 

「久しぶりだな、美咲」

 

圭悟が優しく微笑む。

 

「蓮音、でけぇな。
1歳って、もうこんなにしっかりするもんかよ」

 

「まるで総長のちっちゃい頃を見てるみてぇだ」

 

哲が軽く冗談を飛ばす。

 

 

私は
小さく笑いながら蓮音を抱き直す。

 

「…元気に育ってくれてます」

 

「皆さんのおかげです…」

 

 

「いや…」

 

冬馬が静かに言った。

 

「蓮が命懸けで残してくれた子だ」

 

「…守るのは、俺らも同じだよ」

 

 

その言葉に
また胸が熱くなった。

 

思わず俯き
こみ上げる涙を堪える。

 

 

「蓮くんも…喜んでるかな」

 

 

墓石の前に置かれた蓮の写真。

 

優しい笑顔のその写真に
私はそっと語りかける。

 

 

「ちゃんと守ってるよ」

 

「蓮音と…毎日、一緒に頑張ってる」

 

「パパがつけてくれた名前、毎日呼んでるよ」

 

 

蓮音が小さな声で
何かを口ずさむように声を上げた。

 

「……ぱ…ぱ…」

 

 

私は驚いて顔を上げた。

 

「え?今、パパって言ったの?」

 

 

蓮音は
まるで分かってるみたいに

 

じっと蓮の写真を見つめて
にこっと笑った。

 

 

涙がぶわっと溢れた。

 

「…うん…パパだよ…」

 

「蓮くんだよ…あなたのパパだよ…」

 

 

そのまま声を押し殺して泣いた。

 

圭悟たちも静かに目を伏せて
優しく空を仰いでいた。

 

 

春の柔らかな風が吹いた。

 

ふわりと舞い上がる桜の花びら。

 

まるで
蓮が優しく背中を撫でてくれてるようだった。

 

 

『……泣くなよ 美咲』

 

蓮の最後の声が
また頭の中に響いた。

 

 

私はゆっくり顔を上げた。

 

「…大丈夫だよ、蓮くん」

 

「泣かないよ。もう泣かない」

 

「あなたが命をかけて守ってくれた私と蓮音――」

 

「これからも、二人でしっかり生きていくから」

 

「だから、安心して見ててね」

 

 

静かに手を合わせた。

 

 

蓮音の手を添えながら
二人で静かに祈った。

 

ーー

 

これからも続いていく日々の中で
蓮のことを忘れる日は、一度も来ない。

 

でも私は
立ち止まらずに生きていく。

 

蓮音と一緒に

 

私たちの “家族” として――

 

ーー