ーー
夜の空は
どこまでも静かで、やけに高かった。
廃工場の前――
不死蝶會と黒鷹連合
両陣営のバイクが何十台も並ぶ。
ヘッドライトの光が
鋭く闇を切り裂いていた。
まるで
嵐の前の静けさ。
「……いよいよだな」
副長の圭悟が
緊張を滲ませながら呟く。
蓮は
黙って正面を見据えたまま答えない。
けど、その眼差しは鋭く冴えたまま
少しもブレていなかった。
“これが最後だ”
心の中で
何度も繰り返していた言葉。
哲、冬馬、圭悟――
背後にいる仲間たち。
そして
名前すら知らない新人の若い連中まで。
全員が
蓮の背中を信じ、支えてくれていた。
だけど――
今日守り抜くべきものは
その背後じゃなかった。
“俺には…もう一つ背負ってるもんがある”
腹の中で育ってる命
泣きながら縋ってくれた美咲の姿――
全部を守るために
ここまで来た。
ドォオオン…ドドド…ドォォン…
重低音の爆音が闇に響く。
黒鷹連合の大部隊が姿を現した。
鷹村率いる黒鷹連合は
不死蝶會よりも数が多い。
ざっと見ても
こっちの倍以上はいた。
でも
一歩も引くつもりは無かった。
ヘッドライトの光が交差する中
鷹村が前に出る。
「一ノ瀬――」
「逃げずに出てきたか。感心だな」
蓮は
ゆっくりと前に一歩踏み出す。
「逃げたら守れねぇ
今日で全部終わらせる」
鷹村が薄く笑う。
「終わるのはテメェだ
――甘ぇよ、一ノ瀬」
蓮はその挑発に
微動だにせず、淡々と返す。
「甘くなったんじゃねぇ
守りたいもんができただけだ」
鷹村の笑みが消えた。
ほんの一瞬
鋭い静寂が流れる。
やがて
鷹村が叫ぶ。
「潰せッ!!!!」
その叫びを合図に
両陣営が一斉に動き出す。
ドォン――!!
地響きのような怒号と爆音
バイクの列が崩れ
鉄パイプとバットが振り下ろされる。
乱闘が始まった。
ーー
蓮は真っ先に中央突破を選んだ。
前から飛びかかってきた敵を
次々に薙ぎ倒していく。
「邪魔だッ!!」
鋭く振るった鉄パイプが
敵の肩を打ち抜く。
「総長の道開けろや!!」
圭悟たちも叫びながら背後を守る。
哲は敵のパイプを受け流し
そのまま一撃を叩き込む。
冬馬は敵の二人を同時に薙ぎ倒す。
それでも黒鷹連合は次から次に襲い掛かる。
完全に数で押してきていた。
チッ...
蓮の額から汗と血が混ざり落ちる。
拳が痺れ
腕が重くなっていくのが分かる。
だが
踏み止まるつもりはなかった。
『まだ倒れねぇ…
帰るまでは――倒れねぇ…!』
再び敵のパイプを掴み
奪い取るように引き寄せ、一気に殴り倒す。
だが――
徐々に包囲が狭まってきた。
圭悟たちも徐々に押し込まれ始め
蓮の周囲に黒鷹連合の幹部格が集まり始める。
「ここまでだな、一ノ瀬」
鷹村の声がすぐ近くまで迫っていた。
蓮は肩で息をしながらも
睨み返す。
「……まだだ
終わってねぇ…」
幹部格が一斉に囲む。
一人が突撃し
蓮の肩へパイプが打ち込まれた。
鈍い音が響く。
「ッ…!」
だが倒れない。
そのまま
蓮は拳を振り上げ、そいつを沈めた。
「総長!!」
遠くで圭悟の叫び声。
蓮は苦しそうに振り返る。
その瞬間――
背後から、鋭い光が閃いた。
刃。
右脇腹から深く抉るように突き刺さる。
「ッ……!!」
鮮血が噴き出した。
膝が大きく沈み込みそうになる。
だけど――
歯を食いしばって
なんとか踏みとどまった。
『まだだ…!
まだ倒れねぇ…!!』
倒れたら
もう帰れない。
美咲の顔
あの夜の涙
そして
まだ抱くことのできていない――
“俺たちの子供”
全部が脳裏に浮かぶ。
「お前ら全員…ぶっ潰すまで倒れねぇぞ…!!」
蓮は叫んだ。
最後の気力を振り絞り
再び拳を握り直す。
だが――
傷口から流れる血が止まらず
視界が滲みはじめていた。
「総長ッ!!!」
圭悟たちが必死に駆け寄る。
冬馬と哲も必死に援護し
蓮を囲む形で守りに入った。
「……くそ…」
「まだ…だってのに…」
蓮は小さく呟きながら
その場に膝をついた。
息が荒く
呼吸が浅くなる。
『…美咲…
……ごめんな…まだ帰れねぇ……』
静かに
意識が遠のきはじめた。
ーー



