ーー


あの日から
もう何日が過ぎただろう。

 

まだ胸の奥が
うずくみたいに痛いまま。

 

でも

今日もいつも通り
学校へ向かう朝だった。

 

校門の前――

少し騒がしい声が聞こえた。

 

「え、まじ?あの人不死蝶會の総長らしいよ」
「本物!?やば…生で見たの初めて…!」

 

クラスメイトたちが
ひそひそと盛り上がってる。

 

不思議に思って
その視線の先を追う。

 

そして――
私の足が止まった。

 

……あの人だ。

 

黒いジャケットに
不死蝶會の刺繍。

 

背の高いシルエットが
ゆっくり歩いていく。

 

目が合った。

 

…ドクン

 

一瞬、心臓が跳ねた。

 

でも

彼はただ冷たく
無表情で私を見ただけだった。

 

何も言わず
何も残さず
そのまま歩き去っていく。

 

 

胸の奥がまた
ザワザワしてくる。

 

怖い――
けど、どうしてだろう

 

……あの目が、離れない。

 

ーー

 

放課後

 

空は曇り始めてて
少しずつ風が冷たくなってきた。

 

家までの帰り道――

 

カツン――

 

「……あ」

 

ヒールが折れた。

 

バランスを崩して
その場にしゃがみ込む。

 

「最悪…」

 

動けなくなった足元を見つめてると
背後からまた
あのバイクのエンジン音が響いた。

 

ブォン――…

 

振り返ると
そこに立っていたのは

 

やっぱり――
あの人だった。

 

不死蝶會の総長――蓮。

 

ゆっくりと近づいてくる。

 

「……何してんだ」

 

低い声が、耳に刺さる。

 

「え…あの…」

 

慌てて立とうとするけど
うまく体が支えられない。

 

蓮は無言のまま
ポケットから何かを取り出す。

 

鍵だ――

 

そのままバイクの方へ歩いていき

 

一度だけ私を振り返る。

 

「……乗れ」

 

短く、それだけを言った。

 

驚きで動けない私を
さらに無言で見つめ返してくる。

 

怖い…けど

……不思議と逆らえなかった。

 

ゆっくりと後部座席に跨ると
蓮はそのまま
何も言わずアクセルを回した。

 

風の音だけが、耳を打つ。

 

背中越しの蓮の体温が
ほんのりと伝わってくる。

 

「…」

 

ドキドキが止まらなかった。

 

しばらくして
家の近くまで送られる。

 

バイクを降りると
蓮は冷たく一言だけ告げた。

 

「気をつけろ」

 

それだけを残して
再び走り去っていった。

 

残された私は――

 

やっぱりまた
その背中を見つめるしかできなかった。

 

ーー