異様なほどに静まり返った空間だった。
まるでこの世界には、4人しかいないんじゃないか。
そんな錯覚を受けるほどに。
おそらくこの倉庫は、防音になっているのだろう。
「それで?研究結果を見せてもらおうか」
「オッケー。待ってて」
いつものカナタからは想像もできない、ひょうひょうとした態度。
どっちが「本当のカナタ」なんだろうか。
私はいつものカナタを信じたいけどな。
でも、現実はそううまくいかないから。
そんなことを考えていると、カナタがいなくなっていた。
正確に言えば、地下へ行ったのだけど。
「見つけた」
そんな声が聞こえて、カナタは地下室から出てきたようだ。
「これが1番効果のある試作薬だよ。使って効き目を聞かせてくれ」
「もっちろーん!いつもありがとうねぇ〜」
にこにこと異様なほど笑う女の子。
私はその笑顔に恐怖した。
あの子の笑顔の裏には闇が隠されている、そんな気がしたから。
「ああ、どういたしまして。あと、頼みたいことがあんだけど」
「なんだ?」
頼みたいこと、とはなんだろう。
ほとんどのことは叶えてくれる立場に、カナタはいる。
つまり、何かうしろめたいことがあるということだ。
気になる。
「そろそろ次の被験体がほしい」
「そんなことか。てきとーな集落を襲えばいいだろ」
「そだねー。10年くらい前が最後なんだよね?あの、ヒメア…だっけ?の父親おもしろかったよねぇ〜」
いきなり私の名前が出てきて驚いた。
それに、集落を襲うって。
穏やかなことではない。
「俺達からしたら、姫様の記憶を消してくれたのは好都合だったな」
やっぱり私の話をしているんだ。
それに、記憶を消したって?
「国王も女王も、ヒメアに実の親だとすり込ませてるんだろ?ほんと、好都合でしかないよな」
私の親は、本当の親ではない?
私の知らない情報がどんどん出てくる。
でもだとしたら、どうして隠す必要があったのだろう。
そんなことを考えていた時だった。
一瞬気がゆるんで、音を立ててしまった。
カタンッ…。
会話の中に、ほんの少し混じった音。
その音を、都合よく聞き逃してはくれなかった。
「今の音は?」
「なんだろね〜。誰かいたりしてっ、きゃはは!」
やばい、バレた。
どうしよう。
だんだん近づいてくる足音に、私の鼓動は速くなる。
「誰かいるのか?」
私が隠れている箱の前で立ち止まる男。
もう見つかる、と目をぎゅっとつむった。
その時、前の小窓から手が伸びてきて、手首をつかまれた私は外へ勢いよく出た。
まだドクンドクンと、心臓が音を立てている。
さっきの手はなんだったのだろう。
そう考えている間に、私はまた手首をつかまれて走った。
私と同じようにフードをかぶっている、体格からして少年。
私はその少年に続いて走り続けた。
あの倉庫から人が出てくる気配はなかった。
そのことに、私はあんどした。