報復を最愛の君と

約550年前。


私は森の奥の大きな集落で暮らしていた。


まだ立派な建物なんかはなくて、それでも平和に暮らしていた時代。


そう、あの日私は能力者に出会った。


まだ人間しかいないとされていた時代に、突然現れたひとりの男の子。


一目でその子が人間ではないと分かった。


まるで犬のようにふわふわとした耳が頭についていて、とがった八重歯もあった。


不思議と恐怖はなかったけど、嫌な感じがした。


それと同時に誰かにじっと見られているような感覚があって、私は集落に戻ろうと走った。


走り始めてから数秒経ち、後ろからガサガサという音が聞こえた。


あの犬のような男の子に気がつかれたのだと思っていたが、思い返せばずっと見ていた奴がいたのだろう。


何かが迫ってくる感じがとれなくて、私は全力で走った。


けれど、鈍臭(どんくさ)い私はこけてしまった。


その瞬間、私は囲まれていることに気がついた。


ヒュッと喉に空気が通った感覚があった。


私よりもはるかに背の高い大人達。


ただ食料を探していただけで死ぬなんてごめんだ。


私は怖くてまた駆け出した。


どこまで来たかもわからず、私は走り続けた。


そして、私は足を止めた。


なぜならそこが異様な景色だったからだ。


ひんやりとした地面を見ると、そこは土ではなく…鉄という素材があった。


目の前にあるのは(おり)


動物を捕獲するためのものにも見えたが、そうじゃない。


鈴のついた首輪をしている、人間のような“何か”がその檻の中にいたのだ。


2、3人ではなく何十人と。


大きな檻は、地獄の檻のようにも見えた。


初めて見たその光景は、とても耐えられるようなものではなかった。


突然の吐き気が私を襲い、そのまま崩れ落ちた。


そして、檻の中の“何か”のひとりがゆっくりと振り向き私を見た。


焦点(しょうてん)の定まらない視線で。


「た……け。だ……て」


何を言っているのか分からなかった。


まともにしゃべることができないほどになっているのか、言語が違うのか。


それすらも恐怖で分からなかった。


そしてその時、どこからか鈴の音が聞こえた。


チン…!!


すっと響いた鈴の音は美しいはずなのに、今の私には恐怖の音にしか聞こえなかった。


すると、突然“何か”は首に手を当ててもがき始めた。


——まるで首を絞めているかのよう。


「あぁ…が…!」



何が起こっているのか理解できなかった。


その異様な姿は、私をさらに恐怖させたのだ。


「あらあら。ダメですねぇ、ここにきちゃ。どうしてここにいるのかしら?クラちゃん?」


この身震いするような気色の悪い喋り方は、村長の姉であるエテルネル様だ。


私達は彼女のことはエテ様と呼んでいる。


別名、恐怖のおばさま。


歳を感じさせる白髪の髪にシワのある顔は、常にニコニコしていて気味が悪い。


「エ、エテ様…。これは…」


何をなさっているのですか、そう聞こうとした。


けれど、その笑顔から黒いオーラを感じてそれ以上言えなかった。


「んん?貴女が知らなくてもいいのですよ?これはぁ、呪いです。始末すべきは能力者共!」


「そうだそうだ!」


「神は能力者共の幸せを願っていない!」


異様だった。


エテ様もその周りにいる人も、全員狂ってる。


この“何か”が先ほど見た犬の少年と同じ、“能力者”であればこれは間違っている。


理不尽だ。


でも、私に何ができる?


何を言っても、エテ様にきっと飲み込まれてしまう。


自分の無力差を感じて落胆した時、彼女は現れた。


「何をしているのですか?」


上空から聞こえたと思い、顔をあげると私は固まってしまった。


腰まで伸びた銀白の髪に、足はまるで魚のような(うろこ)を持ち、美しい顔立ちと凜とした声。


水のようなものに乗り、浮いている姿はまさに神秘的だった。


「神様…」


エテ様のその声で思い出した。


神の力を持つという三大能力者のひとり、人魚様だ。


「人魚様がこの能力者を制裁をしてくださる!」


「神よ、どうかご加護を」


神はなんの罪もない者を制裁と言い、罰を下すのだと思った。


けれど、私の予想した出来事とは真逆のことが起きたのだ。


「私はたしかに三大能力者の人魚ですが、その者を制裁することはありません。それよりも、罰するべきはあなた方です!」


私は弾かれたように顔をあげた。


端には青ざめたみなの顔が見えた。


「な、何故ですか!私達は神に忠誠を誓い…」


「貴女達は理不尽で人を傷つけているだけです。己の罪を自覚しなさい」


エテ様は両手を合わせガタガタを震えていた。


反対に私は、神は味方してくれたと喜んでいた。


「その者達は連れて帰ります。それと、貴女」


「わ、私…ですか?」


「ええ、そうよ。一緒にくるかしら?」


その言葉に、私の心はぐらっと揺れた。