報復を最愛の君と

私はセレスト様を睨めつけた。
「なぜ私とふたりきりに?」
私は人間で、彼は能力者。
一方的に攻撃される側である私は、セレスト様を警戒するに決まっている。
それに、あのカノン様を殺した人だ。
「そんなにボクを警戒しても意味ないよ。ボクはただ話がしたいだけだから」
「…話とは、なんですか?」
その時、セレスト様は初めて私の方を見た。
じっと視線が合う。
「カノンについてかな」
その後、セレスト様はパチンと指を鳴らした。
それと同時に私は浮き上がり、セレスト様の前のイスに無理矢理座らされた。
「ボクの話を聞いてほしい」
セレスト様は真剣だった。
真っ直ぐに私を見られて、なぜだかなにも言う気になれなかった。
「エクラは、ボクがカノンを殺したのだと思っているよね」
「あ、当たり前です。この目で見たのですから」
私がムッとしながら言うと、セレスト様は視線を落とした。
——なぜ?
この人はカノン様を殺したのすらも忘れようとしている、極悪人じゃないの?
どうして、そんなに悲しそうにするの?
私にはわからなかった。
それから、セレスト様が口を開いた。
「それはボクが見せた偽りの記憶なんだ。といったら、信じてくれるかな?」
私は動揺した。
どう言う意味?
「そう…なんですか?」
「……たしかにカノンはボクの暴走を止めようとして能力を使い果たし、海に帰ってしまった。でも、エクラの見た記憶は偽りだ」
私は言葉を失った。
三大能力者は同じ三大能力者を殺すことができる。
私はたしかにカノン様の胸を貫いたセレスト様の腕を覚えている。
それは、嘘なの?
「暴走したとは?」
「ボク達は強いこの能力を抑えるために、精神を保つ必要がある。でも、ボクはあることがきっかけで精神が崩壊した。理由がわかる?」
理由。
あの時セレスト様は人間が信じられないと言っていた。
人間はいとも簡単に能力者を裏切り、上に立とうとする愚かな生き物だって。
けれど、なにがあったのかセレスト様と人間達は平和条約を結んだ。
しかし再び人間に裏切られる。
『ただ信じたかったんだ…!人間にもいい奴がいて、きっと平和に暮らせる未来があるって。いや…ごめん、こんなのただの言い訳だ…』
この記憶はなに?
「人間に裏切られたからだよ。ボクは心のどこかで期待していた。人間達と、きっと平和に暮らせる未来があるって。でも——」
「それは、ただの夢で終わってしまったのですね。そんなセレスト様をこのまま死なせるわけにはいかないと、カノン様はお止めになったのですね」
セレスト様は目を見開いた。
自分でも驚いていた。
こんなにも憎んでいた人を救いたいだなんて、絶対におかしい。
「信じます、貴方のこと。カノン様がやりそうなことです」
でも、でも、カノン様を1番よく見てきたのは私だから。
ああ、懐かしい。
いつでも楽しそうに笑ってくれる彼女の姿が。
『私にとって1番大切なのは、家族を守ること。セレストとセラン。それから…クラもだよ』
カノン様は最後まで自分のやりたいことをやって生きたのね。
「そう…なんだろうね。ありがとうエクラ。……今すぐに人間達を信じることは難しいよ。でも、少しずつ受け入れられたらいいなと思うよ。ボクはこのフロス国の国王として、三大能力者の天竜として世界を豊かにしないとだからね」
なにかが変わってる。
そう思った。
「私はこれからは、ヒメア様にお仕えするつもりです。私は人魚様をこの命尽きるまで守ってみせます」
「それがキミの意思なんだね。うん、頑張って。キミと話ができてよかったよ。これからもよろしくね」
そう言ってセレスト様は笑った。
私達は仲直りの証として握手をして、話を終えた。
これがなかったら、私はずっとセレスト様を恨んでいたことだろう。
しかし、彼はそのように恨むような方ではなかったとわかった。
「話し合いって大事だなぁ」
なんだかいろいろと学べたのであった。