報復を最愛の君と

あの日も僕はヒメアに会うために、抜け出していた。


早く会いたくて、かけ足で村に向かっていく。


ヒメアの住むアストラ村は、とても自然がきれいなところだった。


空気も澄んでいて、すごく心地のいい村だ。


「あれ?ソラじゃない!」


ヒメアの声が聞こえて、僕は振り返った。


ヒメアは洗濯物を川で洗っていたみたいで、洗濯かごを抱えていた。


銀色の髪がゆれて、僕の鼓動は速くなった。


「ごめん、早くきすぎちゃった」


「ううん、大丈夫だよ〜。あ、でも…私まだやることがあるんだ」


「そっか。じゃあ、先に村に行ってるね」


「うん。そうして」


僕よりずいぶんと華奢(きゃしゃ)な体で、毎日頑張っていた。


いつもと変わらない日常だったのに。


その日常は、いとも簡単に終わりを告げる。


***


街に近寄った瞬間、いつもと違うことに気がついた。


いつもはにぎやかで、人は少ないけど活気あふれる村だ。


今日はそれが静かだから不自然に感じる。


嫌な気がしてならない。


いつものようにヒメアの家に行き、ドアを開ける。


しかし、誰もいない。


この時間なら、いつもはヒメアの両親がいるはずだ。


一体何が起きているんだ。


その時、風と共に流れてくる薬の匂い。


違和感を覚え、普段は行かない地下室へと行った。


ツンっとする薬の匂いと、生臭い血のような匂いが僕に警告をする。


不安が僕を煽った。


突然、コツコツという革靴の音が後ろから聞こえた。


とっさに体が動き、僕は物陰に隠れた。


「実験体は集まった。あとはこの村の能力者達を運ぶだけだ」


男の声がした。


物陰から少しだけ頭を出して、男の様子をうかがった。


男はローブを着てフードをかぶっており、顔が見えなかった。


後ろには華奢な女がいたが、同じような格好をしていたため顔はわからない。


「ねぇ、実験体を集めるの早いんじゃない?だって、あのカナタとかいう研究者も見つかってないしぃ〜」


女のしゃべり方に、僕は嫌悪感を抱いた。


気持ちが悪い。


どうやら彼らは、この村の人を実験体として連れていく気なのだ。


「大丈夫だ。能力者といえど、俺達に抵抗はできまい」


「ま、そうだね〜。村の人はあれで全員?」


「そんなこと、村の住人に聞けば分かるだろう」


ふたりはそんな話をしながら奥へ進んでいった。


この奥には物置部屋がある。


そこにきっとヒメアの両親もいるのだろう。


けれど、今行けばさっきの奴らと鉢合わせる。


なら僕が今やるべきことは——。


ヒメア…!!


僕は急いで来た道を引き返していった。


僕は息を切らし、乾ききった喉の痛みを感じながら走った。


ヒメアはまだ洗濯物を洗っているはずなので、いつも遊んでいるあの川へ走った。


「ヒメア…!」


銀色の髪が見えて、彼女だと思った。


声をかけるとヒメアは振り返って、僕に手を振ってくれた。


でも、僕の様子を見てその表情は不安にゆがんだ。


“もしも”。


ヒメアはそんな言葉の中で生きていると、そう知っていたから。


言えなかった。


「村には戻らないで」


君に今真実を告げたくないと思った。


俺の1番の後悔はこれだ。