名前も知らない貴方とだから恋に落ちたい





謝るあなたは、以前よりも頬がこけて顔色も少し悪い気がする。


本当に仕事が忙しかったみたい。





「ねぇ、泣いてるの?」




頭の中で感情がごちゃごちゃになって、好青年を見つめたまま泣いていた。


目を見開いて、流れた涙を拭こうと頬に手を伸ばしてくれたのに、顔を背けて自分で拭った。





「飲み物、私のお金で買うの卑怯ですよ。何買ったんですか?」




寂しかったと言ってしまったけど、一度しか会ったことのない女性から、涙を見せて寂しかったと言われても、困るに決まってる。



相手に同じ気持ちがなければ、引かれるだけなのに。




自販機の受取口から出てきたのは、缶のブラックコーヒーだった。


また買ってる。




顔を見せないように、涙を見られないように缶を渡した。


何も言わずに、受け取ってほしい。



下を向いていると両頬を挟まれて、前を向かされてしまった。





「やっぱり泣いてる」


「…泣いてないですっ」




ダメだ。


あなたの顔を見ると、涙が出る。



そんなに、この人のことが好きなのかと自分でも驚く。




今度こそ、流れた涙を拭われてしまった。



何も話さず、無言で見つめ合う時間が続く。


ただ眉尻を下げて私を見つめている好青年と、必死に嗚咽を堪えている私。