「……ただいま」
玄関を開けると、家の中は静かだった
両親は共働きで、帰りは遅い
自分の部屋にカバンを置いて
制服のまま、ベッドに沈み込む
ふとスマホを開いて
今日撮ったクラス写真や
友達との会話ログを見返す
でも、そこには悠の姿はどこにもなかった
「なんで、あの人のことばっか考えてんの」
自分に向けた言葉だったけど
答えなんて、出るはずがなかった
机の引き出しに、さっき返してもらったハンカチがしまってある
“ありがと……悠くんって、やさしいんだね”
あの言葉、今さらながら恥ずかしくて
枕に顔を押しつける
でも
言ってよかったとも思ってた
あの時
なんとなく伝えなきゃ、って気がしたから
ベランダに出ると
夜風が少しだけ肌に触れた
風の匂いが変わり始めてる
“夏だ”って、どこかで実感した
明日もまた、学校がある
また会える
それだけのことが、今日はちょっとだけうれしい
“好き”って気持ちはまだない
たぶん、まだ
でも
“気になる”だけじゃ言い足りない
それが、何なのか
自分でもまだわからなかった
夜空を見上げて
小さく笑った
「……変なの」
そう呟いて、部屋に戻ったその瞬間
風がカーテンをそっと揺らした
夏の始まりは
まだ静かに、確かに
ふたりの中に広がりはじめていた
玄関を開けると、家の中は静かだった
両親は共働きで、帰りは遅い
自分の部屋にカバンを置いて
制服のまま、ベッドに沈み込む
ふとスマホを開いて
今日撮ったクラス写真や
友達との会話ログを見返す
でも、そこには悠の姿はどこにもなかった
「なんで、あの人のことばっか考えてんの」
自分に向けた言葉だったけど
答えなんて、出るはずがなかった
机の引き出しに、さっき返してもらったハンカチがしまってある
“ありがと……悠くんって、やさしいんだね”
あの言葉、今さらながら恥ずかしくて
枕に顔を押しつける
でも
言ってよかったとも思ってた
あの時
なんとなく伝えなきゃ、って気がしたから
ベランダに出ると
夜風が少しだけ肌に触れた
風の匂いが変わり始めてる
“夏だ”って、どこかで実感した
明日もまた、学校がある
また会える
それだけのことが、今日はちょっとだけうれしい
“好き”って気持ちはまだない
たぶん、まだ
でも
“気になる”だけじゃ言い足りない
それが、何なのか
自分でもまだわからなかった
夜空を見上げて
小さく笑った
「……変なの」
そう呟いて、部屋に戻ったその瞬間
風がカーテンをそっと揺らした
夏の始まりは
まだ静かに、確かに
ふたりの中に広がりはじめていた



