「菜亜?悠、まだ来てないの?」
教室の後ろから、莉愛が声をかけてくる
「……うん、今日も休みみたい」
最近、悠はあまり学校に来なくなった
病院での検査が増えて、家にいる時間も長いらしい
「……大丈夫?」
「わたしは、平気。でも――」
言葉の先が、喉で詰まる
ほんとは不安でたまらなかった
忘れていくペースが、前より速くなってる気がして
“次に会ったとき、わたしの名前も思い出せなかったらどうしよう”
そんなこと、考えたくもないのに
放課後
勇気を出して、悠の家を訪ねた
「……悠、いる?」
インターホンを押すと
少しして、扉がゆっくり開いた
そこに立っていたのは――
「……こんにちは」
少しだけ遠慮がちに笑う悠だった
「あ……あれ?」
その笑顔に、胸が締めつけられる
でも、声に出す前に
悠が口を開いた
「……ごめん。どこかで会ったことある?」
言葉が、凍りついた
ほんの数日前まで
ふたりで“記憶帳”を書いていたのに
悠は今
わたしのことを“ただの女の子”として見ている
「……ううん、こっちこそ突然ごめんね」
「渡したいものがあって」
そう言って
菜亜はカバンからふたりの記憶帳を取り出した
「これは……?」
「あなたが書いたもの。わたしと一緒に、思い出した記録」
「忘れてもいい、読まなくてもいい」
「でも、捨てないで」
「それだけ……お願い」
悠は、黙ってノートを受け取った
「ありがとう」
その一言だけを残して、扉が閉まる
その夜
悠の部屋の机には、開かれた記憶帳
手書きの文字
小さな落書き
ふたりで貼った写真
ページをめくるたびに
心がざわめき始める
“この人と笑い合ってた俺がいる”
“この人を、守ろうとしてた俺がいる”
“……好きだった?”
次の日、学校の前に悠が立っていた
「お、おはよ……!」
「……なあ」
「お前、菜亜って名前で合ってる?」
「え?」
「昨日のノート見てさ、全部思い出せたわけじゃねぇけど」
「でも、1ページ目に書いてあったこと――」
「“お前の目を見て話したとき、俺はたぶん、もう惹かれてた”って」
「それだけは、信じてみたくなった」
菜亜は、涙を浮かべながら笑った
「……それで充分だよ、悠」
「また、はじめよう?」
「“再会”から」
手を伸ばして、指先が重なる
この感触だけは、何度でも思い出せるように
ふたりは今、再び
**“好きの続きを始める”**ところに立っていた
教室の後ろから、莉愛が声をかけてくる
「……うん、今日も休みみたい」
最近、悠はあまり学校に来なくなった
病院での検査が増えて、家にいる時間も長いらしい
「……大丈夫?」
「わたしは、平気。でも――」
言葉の先が、喉で詰まる
ほんとは不安でたまらなかった
忘れていくペースが、前より速くなってる気がして
“次に会ったとき、わたしの名前も思い出せなかったらどうしよう”
そんなこと、考えたくもないのに
放課後
勇気を出して、悠の家を訪ねた
「……悠、いる?」
インターホンを押すと
少しして、扉がゆっくり開いた
そこに立っていたのは――
「……こんにちは」
少しだけ遠慮がちに笑う悠だった
「あ……あれ?」
その笑顔に、胸が締めつけられる
でも、声に出す前に
悠が口を開いた
「……ごめん。どこかで会ったことある?」
言葉が、凍りついた
ほんの数日前まで
ふたりで“記憶帳”を書いていたのに
悠は今
わたしのことを“ただの女の子”として見ている
「……ううん、こっちこそ突然ごめんね」
「渡したいものがあって」
そう言って
菜亜はカバンからふたりの記憶帳を取り出した
「これは……?」
「あなたが書いたもの。わたしと一緒に、思い出した記録」
「忘れてもいい、読まなくてもいい」
「でも、捨てないで」
「それだけ……お願い」
悠は、黙ってノートを受け取った
「ありがとう」
その一言だけを残して、扉が閉まる
その夜
悠の部屋の机には、開かれた記憶帳
手書きの文字
小さな落書き
ふたりで貼った写真
ページをめくるたびに
心がざわめき始める
“この人と笑い合ってた俺がいる”
“この人を、守ろうとしてた俺がいる”
“……好きだった?”
次の日、学校の前に悠が立っていた
「お、おはよ……!」
「……なあ」
「お前、菜亜って名前で合ってる?」
「え?」
「昨日のノート見てさ、全部思い出せたわけじゃねぇけど」
「でも、1ページ目に書いてあったこと――」
「“お前の目を見て話したとき、俺はたぶん、もう惹かれてた”って」
「それだけは、信じてみたくなった」
菜亜は、涙を浮かべながら笑った
「……それで充分だよ、悠」
「また、はじめよう?」
「“再会”から」
手を伸ばして、指先が重なる
この感触だけは、何度でも思い出せるように
ふたりは今、再び
**“好きの続きを始める”**ところに立っていた



