最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―

「ノート……?」

「そう、“ふたりの記憶帳”」

 

菜亜はそう言って
白くて分厚いノートを机に置いた

表紙には、まだ何も書かれてないけど
中身はこれから、ふたりで作るって決めた

 

「最初のページ、何書く?」

「んー……じゃあ、最初の出会いとか」

「図書室?」

「そう。あの日のこと、ちゃんと覚えてる?」

 

「……あやしい」

「はやっ」

 

「でもな、菜亜が最初に“話しかけてくれた”ってのは
なんとなく覚えてる」

「そっか」

 

ふたりで笑ったあと
菜亜がペンを取って、ページに書き始めた

 

1ページ目
― 図書室で出会った日 ―

“あのとき、わたしが本を落としたことがきっかけで話しかけた”

“悠は最初ちょっと冷たくて、でも目は優しかった”

“その日から、少しずつ気になるようになった”

 

「……はい、次。悠の番」

「俺も書くの?」

「もちろんでしょ」

「字、汚いけど」

「それも含めて記録するの」

 

俺は苦笑いしながら、ペンを持つ

 

“あのときのこと、ちゃんと覚えてるかって言われたら、正直あやしい”

“でも、菜亜が本の背表紙見て照れてた顔は、なんとなく焼きついてる”

“そのあと、毎日のように図書室で会って、気づいたら一番目で追う存在になってた”

 

「……ちゃんと書けた」

「うん、よくできました」

 

その日、ふたりはずっと笑ってた

笑いながら、たくさん思い出を書いて
お互いの気持ちも、全部、文字にしてった

 

2ページ目
― 初めて手をつないだ日 ―
3ページ目
― 傘を一緒にさした日 ―
4ページ目
― 体育祭の帰り、秘密のベンチ ―

 

ページをめくるたびに
“好き”が積み重なっていく

 

(たとえ、俺の頭が全部ぶっ壊れても)

(このノートがあれば――)

(きっと俺は、また“菜亜に恋する”んだろうな)

 

そんな、ちょっとクサいことを思いながら
俺はまた、ページをめくった

 

次のタイトルは
― まだ、言えてないこと ―

 

「ねぇ悠」

「ん?」

「最後のページはさ、いつか絶対ふたりで書こ」

 

「……わかった」

「でも、その“いつか”が来る前に」

「今、ちゃんと全部書いとかないとな」

 

 

ふたりは、もう“未来を怖がらない”って決めた

ページを埋めるたびに
“変わらない気持ち”が、確かになってく

 

それが、“ふたりの記憶帳”

それが、“愛のタイムカプセル”