最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―

―知らないはずの声に、胸が騒いだ―

 

「おはよう、悠くん」

その日、初めて
名前を呼ばれて、ちゃんと返事をした

「……おはよ」

たったそれだけの挨拶なのに
胸の奥が妙にくすぐったい

 

隣の席に座る**菜亜(なあ)**は
何かに集中してるときは話しかけづらいけど
ふとした瞬間、こっちを見る

その視線が何を思ってるのか、まだ読めない

でも

見られてると思うだけで
自分の動きが変わる気がして、妙に意識してしまう

 

 

1時間目の授業の途中
プリントを配られて、菜亜がペンを探しているのに気づいた

「……貸す?」

声をかけたら、少し驚いた顔でこっちを見たあと
すぐに小さく笑った

「ありがと、助かった」

その声が
やけに耳に残った

 

 

後ろの席の**希衣(きい)と莉愛(りあ)**が
小声で話してるのがなんとなく聞こえる

“え?なあ、ゆうくんと話してる”
“やっぱ隣って距離縮まるよねー”

そんなこと言われたら
余計に意識してしまって、ノートの文字も途中で止まる

 

 

放課後
帰ろうとしたとき、机の上に彼女のハンカチが置き忘れられてた

「……おい、これ忘れてる」

渡しただけだったのに
菜亜は、少しだけ目を見開いて言った

 

 

「ありがと……悠くんって、やさしいんだね」

 

 

心臓が
どくんって跳ねた

 

「別に、普通だろ」

そう返したけど
目をそらすのが精一杯だった

 

 

それだけのやりとりなのに
その日はずっと、呼吸が浅かった

 

 


ベッドに横たわっても、何度も頭の中に
「悠くん」って声が響いて

知らないはずの声なのに
どうしてこんなに、胸が騒ぐんだろうって

自分でもわからなかった