病院の待合室ってさ
無駄に静かで落ち着かない
「名前呼ばれるまで、緊張するな」
隣にいる菜亜が、ぽつりとつぶやく
俺は黙って、首を動かしただけ
(ほんとは、こいつの手、握りたかった)
(でも、変なところで意地張ってしまう)
「――高橋 悠さま」
名前を呼ばれた瞬間、少しだけ手が震えた
(なんてことねぇ)
(検査受けて、疲れてるだけだって言われて終わり)
(……だったらいいのに)
診察室の中
医者の顔は、最初から真剣だった
「いくつかの検査結果を見て、少し気になる点がありまして」
「……気になる?」
「記憶が抜け落ちているという症状と、
過去の出来事が断片的になるという点から――
MRIの結果にも、わずかではありますが反応が出ていて」
医者の声が、遠くに感じる
「脳の“側頭葉”に、わずかな異常が見られます」
「現時点では軽度ですが……進行性のものかどうか、経過観察が必要です」
(進行性?)
(なにが、進行すんだよ)
「もしかすると今後、記憶の抜けが増える可能性もあります」
「ただ、現段階で“病名”を断定するのは難しいです」
「ストレス性の一過性の記憶障害の可能性もあるので…」
「……戻る可能性も、あるんですか」
菜亜の声が、静かに響いた
「ええ、もちろん。今後の経過を慎重に見ていきましょう」
診察室を出たあと
俺は、菜亜の顔をまともに見れなかった
でも
歩くときに、菜亜の指がそっと俺の手をつかんだ
(泣いてないのに、泣きそうになった)
「ごめんな」
「……ごめんばっか、言わないで」
「ちゃんと、いようよ」
「こういうときこそ」
手を強く握られた
あったかかった
それだけで、少し息がしやすくなった気がした
(忘れるかもしれねぇ)
(でも――)
(今だけは、絶対に覚えてる)
「ありがとう、菜亜」
その言葉だけは
ちゃんと声に出して、言えた
無駄に静かで落ち着かない
「名前呼ばれるまで、緊張するな」
隣にいる菜亜が、ぽつりとつぶやく
俺は黙って、首を動かしただけ
(ほんとは、こいつの手、握りたかった)
(でも、変なところで意地張ってしまう)
「――高橋 悠さま」
名前を呼ばれた瞬間、少しだけ手が震えた
(なんてことねぇ)
(検査受けて、疲れてるだけだって言われて終わり)
(……だったらいいのに)
診察室の中
医者の顔は、最初から真剣だった
「いくつかの検査結果を見て、少し気になる点がありまして」
「……気になる?」
「記憶が抜け落ちているという症状と、
過去の出来事が断片的になるという点から――
MRIの結果にも、わずかではありますが反応が出ていて」
医者の声が、遠くに感じる
「脳の“側頭葉”に、わずかな異常が見られます」
「現時点では軽度ですが……進行性のものかどうか、経過観察が必要です」
(進行性?)
(なにが、進行すんだよ)
「もしかすると今後、記憶の抜けが増える可能性もあります」
「ただ、現段階で“病名”を断定するのは難しいです」
「ストレス性の一過性の記憶障害の可能性もあるので…」
「……戻る可能性も、あるんですか」
菜亜の声が、静かに響いた
「ええ、もちろん。今後の経過を慎重に見ていきましょう」
診察室を出たあと
俺は、菜亜の顔をまともに見れなかった
でも
歩くときに、菜亜の指がそっと俺の手をつかんだ
(泣いてないのに、泣きそうになった)
「ごめんな」
「……ごめんばっか、言わないで」
「ちゃんと、いようよ」
「こういうときこそ」
手を強く握られた
あったかかった
それだけで、少し息がしやすくなった気がした
(忘れるかもしれねぇ)
(でも――)
(今だけは、絶対に覚えてる)
「ありがとう、菜亜」
その言葉だけは
ちゃんと声に出して、言えた



