最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―

土曜の午後
待ち合わせ場所に着くと、悠はもうそこにいた

制服じゃない私服の悠
なんか、少しだけ“大人っぽく”見えた

 

「……はや」

「お前が来んの、楽しみすぎた」

 

そう言って笑う顔が、ずるい

(ほんとにもう……)

 

(……大好き)

 

 

「どこ行く?」って聞くと

「散歩」とだけ答えて、俺の手を引いて歩き出す

 

(散歩って、どこまで?)

なんて思いながらも
繋がれた手があたたかくて、それだけでどうでもよくなった

 

 

商店街のクレープ屋に並んで
「チョコバナナ頼みすぎ。中学生かよ」って笑われて
「うるさい、悠は何にしたの?」って返したりして

ちょっとした言い合いが
ぜんぶ甘くて、幸せだった

 

 

夕方、河川敷に座ってふたりで空を見た

オレンジとピンクが混ざったグラデーションの空
その下で、悠がふっと言う

 

 

「……お前さ」

「うん?」

「ほんと、俺の人生狂わせたよな」

 

 

心臓が、一瞬止まりそうになった

 

「……え?」

 

「いい意味で、な」

「お前と会って、
俺、めんどくさい人間になった」

 

「前はなんも考えずに生きてたのに」

「今は、考えすぎて寝れねぇ夜ばっか」

「お前が、俺の隣にいるかどうかだけで
1日が良かったか悪かったか決まる」

 

「……バカみてぇだよな」

 

 

菜亜は、黙って首を横に振った

「……バカじゃないよ」

 

「わたしもそうだから」

「わたしも、悠のことばっか考えてる」

 

「嬉しいことも、悔しいことも
最初に伝えたいのは、いつも悠なんだよ」

 

 

悠が、目を伏せて笑った

「……そっか」

「じゃあ、よかった」

 

(今だけは、壊れないで)

(この時間だけは、奪わないで)

 

そう心の中で願いながら
ふたりはただ、黙って空を見上げていた

 

 

風が優しかった
肌に当たる温度も、ぬるくてちょうどよくて

全部が、“幸せの中にいる”って感じがした

 

 

でも
その優しさに甘えたその時が――

 

“最後の夏だった”