放課後
窓の外は少し赤く染まりはじめていて
静かな教室に残っていたのは
悠と菜亜、そして数人の残り組だけだった
菜亜は、鞄を机に引っかけたまま
ぼんやりと窓の外を見ていた
「……なんか、今日の空すき」
ふいに
そんな言葉が落ちた
悠は思わず手を止めて
横顔を見た
逆光で輪郭がぼやけてて
でも目だけは、まっすぐ空を映していた
「どうして?」
聞いてもないのに
自分から声が出たのが、自分でも意外だった
菜亜は、少しだけ考えるそぶりを見せたあと
ふっと笑った
「……今日が、きっと忘れられない日になる気がして」
それは
ただの思いつきだったのかもしれないし
何かを感じ取った直感だったのかもしれない
けど
その言葉は
不思議と、悠の胸の奥にずっと残っていた
「……俺も、そんな気がする」
そう返した声は
自分でも驚くほど、静かで優しかった
菜亜は
それを聞いてまた、少しだけ笑った気がした
その日
夏はまだ静かだった
けどふたりの世界だけ
誰よりも早く、動き出してた



