風が吹き抜けて
少し肌寒さを感じる放課後の屋上
悠は、壁に背中を預けたまま
目線を落としていた
「……で?」
愛翔は目の前に立ったまま
視線を外さずに言った
「何があったんだよ。菜亜、ずっと気張ってんぞ」
「別に、なんもねぇよ」
「嘘つけ。俺にはバレてるっての」
悠は、反射的に舌打ちしそうになって
ギリギリで飲み込んだ
「……俺、あいつのことちゃんと好きだよ」
「じゃあ、なんで何も言わねえの」
「言ってんだろ、ちゃんと渡して、ちゃんと気持ち伝えた」
「じゃあ、そのあとのことだよ」
愛翔は、悠の前に一歩踏み出す
「お前さ、“渡したら終わり”だと思ってんのか?」
「菜亜は、お前の一言で一日浮かれて
お前の沈黙で一日落ち込むタイプなんだよ」
その言葉が、ぐさりと刺さる
「お前、バカ正直で不器用なの知ってるけどさ
好きになったなら、もっとまっすぐ向き合えよ」
「黙ってたら、奪われんぞ?」
悠の拳がポケットの中でぎゅっと握られた
「……奪わせねぇよ」
「だったら、動け」
愛翔はそれだけ言い残して、階段へと向かって歩き出した
その背中を見送りながら
悠は自分に言い聞かせるように呟いた
「……言わなきゃ、伝わんねぇか」
その声は
風にかき消されそうなくらい、静かだった
でもその分だけ、重かった



