―夏の音が、まだ遠かった日―(再会の教室)
昼休みの終わり
教室の扉がノックされたあと
先生が、新しい転校生を連れて入ってきた
「えー、みんな席つけー」
先生の声でざわついていた教室が静まる
「今日からこのクラスに入る生徒だ」
入ってきたのは
あの、朝ぶつかった女の子だった
一瞬だけ、目が合った気がして
悠の心臓が、不意に跳ねた
あの時と同じ――いや、それ以上に
“懐かしい”って感覚が、胸を刺す
「自己紹介、してくれるかな」
先生の促しに
彼女は小さく一礼してから、前を向いた
「……菜亜です。菜の花の『菜』に、亜細亜の『亜』で“なあ”って読みます」
声は緊張してたけど、どこか凛としてて
教室にいた誰もが、一瞬だけ空気を止めた
「転校は慣れてる方だけど、また仲良くしてもらえたらうれしいです」
静かに頭を下げたその姿に
思わず視線を逸らせなかった
「菜亜ちゃんは、今日から後ろの窓際……悠の隣な」
「え」
悠の声が少しだけ漏れたけど
先生は聞こえてない様子で、話を進める
菜亜が、小さく笑ったように見えた
「……よろしくね、悠くん」
席についた瞬間
そう言って、菜亜が声をかけてきた
名前……呼ばれたの、いつぶりだろう
「……ああ、よろしく」
たったそれだけの会話なのに
なんでか胸の奥がずっとざわついてた
授業の内容なんて、全然入ってこない
“この出会いが、ただの偶然じゃない”って
どこかで確信してる自分がいた
その日の放課後
教室を出て行く菜亜の後ろ姿を、悠はずっと目で追っていた
「君の名前、やっとわかった」
心の中でそう呟いた
まだ何も知らない
けど、それで十分だった
この日から
ふたりの記憶に
互いの存在が静かに刻まれ始めた
昼休みの終わり
教室の扉がノックされたあと
先生が、新しい転校生を連れて入ってきた
「えー、みんな席つけー」
先生の声でざわついていた教室が静まる
「今日からこのクラスに入る生徒だ」
入ってきたのは
あの、朝ぶつかった女の子だった
一瞬だけ、目が合った気がして
悠の心臓が、不意に跳ねた
あの時と同じ――いや、それ以上に
“懐かしい”って感覚が、胸を刺す
「自己紹介、してくれるかな」
先生の促しに
彼女は小さく一礼してから、前を向いた
「……菜亜です。菜の花の『菜』に、亜細亜の『亜』で“なあ”って読みます」
声は緊張してたけど、どこか凛としてて
教室にいた誰もが、一瞬だけ空気を止めた
「転校は慣れてる方だけど、また仲良くしてもらえたらうれしいです」
静かに頭を下げたその姿に
思わず視線を逸らせなかった
「菜亜ちゃんは、今日から後ろの窓際……悠の隣な」
「え」
悠の声が少しだけ漏れたけど
先生は聞こえてない様子で、話を進める
菜亜が、小さく笑ったように見えた
「……よろしくね、悠くん」
席についた瞬間
そう言って、菜亜が声をかけてきた
名前……呼ばれたの、いつぶりだろう
「……ああ、よろしく」
たったそれだけの会話なのに
なんでか胸の奥がずっとざわついてた
授業の内容なんて、全然入ってこない
“この出会いが、ただの偶然じゃない”って
どこかで確信してる自分がいた
その日の放課後
教室を出て行く菜亜の後ろ姿を、悠はずっと目で追っていた
「君の名前、やっとわかった」
心の中でそう呟いた
まだ何も知らない
けど、それで十分だった
この日から
ふたりの記憶に
互いの存在が静かに刻まれ始めた



