最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―

委員会が終わった後の放課後
会議室から出た菜亜に、悠がぽつりと言った

 

「……ちょっと、屋上行かね?」

 

「……え?」

 

「空、綺麗そうだったから」

 

理由はたぶん、どうでもよくて
ただ、ふたりで話したいって空気が伝わってきた

 

菜亜は、迷いもなく頷いた

 

 

屋上の扉を開けると
夕焼けの光が、まっすぐに降り注いでいた

風が気持ちよくて
世界の音が少しだけ遠くなったような気がした

 

「わ、……綺麗」

思わずそう漏らすと
悠は横で、うんってひとつだけ頷いた

 

「……お前、さ」

 

悠が少しだけ顔を横に向けたまま言う

 

「俺のこと、ちゃんとわかってきた?」

 

「え……」

 

「最初の頃よりは、だいぶマシになってきたろ?」

菜亜はちょっとむっとして
でもすぐに言葉に詰まった

 

「……わかってきたっていうか」

「そっけないかと思えば、やさしかったりして」

「……そのギャップがずるいの」

 

悠はふっと笑った

「そっか」

 

 

しばらく沈黙が落ちる

 

でもそれは
気まずいわけじゃなくて

ただ、
この時間をちゃんと“感じてたい”って空気だった

 

悠は、ポケットに手を入れたまま
ぼそっと呟く

 

「……お前が隣いるの、わりと好き」

 

「っ……」

 

その一言が
まっすぐすぎて
どうしていいかわからなくなった

 

菜亜は、顔を隠すように風の方を向いたまま
なんとか言葉を返す

 

「……それ、言い方もうちょっとなんとかならないの?」

「……もっとちゃんと言ってくれたら、うれしかったかもなのに」

 

悠は少しだけ沈黙してから
また菜亜の方を見た

 

「じゃあ、ちゃんと言ってやるよ」

 

「……お前といると、なんか落ち着く。俺が」

 

 

その瞬間
風の音も、夕焼けの色も、全部消えた気がした

 

そこにあったのは
ふたりだけの時間

“少しずつ、確かに”重なっていく
気持ちの形

 

それはまだ、名前を持っていないけど
もう、恋だった