最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―




放課後
教室を出て向かった先は、またあの場所だった

 

図書室

理由は“課題の参考書”
でも正直なところ
そこに彼がいるかもしれないって期待が
少しだけあったのかもしれない

 

 

「……あれ、また会ったな」

奥の棚の前
姿を見つけて、声をかけたのは悠の方だった

 

「うん……なんか、また同じ本探してる」

「どんだけ選択肢ないんだよ、ここ」

 

苦笑する悠に
自然と笑い返してしまう

 

ふたり、同時に手を伸ばす

目当ての本は一冊だけ
当然、手が重なる

 

「……っ」

思わず引こうとした菜亜の手を
悠が軽く抑えた

 

「そんなビビんなって」

 

低い声で
ゆっくり、でも確かに言われたその一言に
菜亜の体が固まる

 

顔が熱い
さっきまで涼しかったはずの図書室の空気が
一気に濃くなる

 

「……べ、別にビビってないし……」

目を逸らしてそう呟いたら
悠はちょっとだけ笑って

 

「嘘下手」

 

そう言いながら
本を取って、手渡してきた

 

でも
その指先が、ほんの一瞬
菜亜の指に触れたままだった

 

「……読めよ」

 

いつもの口調なのに
今日のそれは、やけに優しくて

だからこそ
余計に胸が鳴った

 

菜亜は本を受け取りながら
うまく言葉が出てこなくて

ただ小さく
「ありがとう」ってだけ返した

 

それだけなのに
図書室を出たあとも
しばらく心臓の音が、耳から離れなかった