菜亜が机にそっと置いたプリントを、悠は片手で受け取った
目も合わさず、どこかそっけない

でも
その態度に隠れてる“照れ”を
菜亜は、なんとなく感じてた

 

「……あの時、助かったから」

「お前さ、礼言いすぎ。いちいち真面目すぎ」

 

わざと強めに返してきたその言い方に
少しムッとして、でも笑ってしまう

「うるさいな、ちゃんと伝えたいだけだもん」

 

そう返すと
悠はようやく視線を向けてきて

少しだけ目が合った

 

 

その瞬間
菜亜の心臓が、どくっと跳ねた

 

ほんの一秒
それだけだったのに、視線の奥に
“なにか”を感じた気がして

 

けど悠はすぐに目を逸らし
頬杖をついたまま、窓の外を見て言った

 

 

「……べつに、助けたつもりとかねーし」

 

 

その言葉が、教室のざわめきに混ざって
でも不思議と、菜亜の中ではちゃんと響いた

 

 

――まっすぐ言えない
けど、伝わってくる

それが、悠って人なんだろうなって
思った