最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―

「……また、夢か」

目が覚めた瞬間
胸の奥に、ひどく静かな痛みが残っていた

けど
何の夢だったのかは、もう思い出せない

目をこすりながら、ベッドから身を起こした
窓の外は真夏の始まりにしては曇ってて
セミの声も、まだ聴こえてこない

制服のシャツはまだアイロンがけの途中
机の上には昨日開きっぱなしの参考書
冷蔵庫に貼った模試の結果のコピーだけが
部屋の空気をちょっとだけ重くする

名前は――悠(ゆう)
高校2年
“何か”を失った気がするのに
“何を”失ったのかは思い出せない
そんな朝が続いている

 

 

通学路
自転車のペダルを踏む足が重いのは
きっと、寝不足のせいじゃない

「あー、マジ今日も会議か……」

携帯をポケットから取り出して
唯一まともに連絡取り合ってる親友――**愛翔(あいと)**からの未読LINEを見てため息

『今日の放課後、例の件で集まるらしい』
『お前来る?』

“例の件”ってのは、生徒会の文化祭準備の話だ
興味もないのに先生に推薦されて
断り切れずに引き受けたポジション

誰にも本音を見せず
やり過ごしてばかりの毎日だった

 

 

そのとき
向かいからふと走ってきた女の子が、角を曲がった拍子に

「あ、ごめ…っ」

軽くぶつかる

その瞬間
脳の奥が、ぐわっと揺れた

見上げたその顔は
どこか懐かしくて
でも、見たことがない

「……っつーか、こっちこそ悪かった」

咄嗟に謝ったけど
その子は一瞬だけ、言葉を詰まらせたあと

「……ううん、大丈夫。ありがと」

そう言って、軽く頭を下げて走り去っていった

 

 

残された空気だけが、違った

見覚えなんて、ないはずなのに
胸の奥が、なんか熱い

「……誰だよ、今の」

言葉に出しても、自分の声が遠く聞こえた

 

 

その日
学校のチャイムの音は、いつもより胸に残った

――まだ、出会ってもいない
なのに、運命はもう
静かに回り始めてた