「花実さん、漬物持ってきましたよ~」
ある日の夜。
由恵は幼い子どもを腕に抱え、その家のチャイムを鳴らした。
夫の母、花実に頼まれ、花実の姉、風香の家に、お取り寄せの漬物を持ってきたのだ。
「ああ、ありがとう。
ちょっと上がっていきなさいよ」
まるでこの家の主であるかのように出てきた花実がそう言う。
いや、遠慮したい。
緊張する。
一見、普通の家に見えるが、ここのご主人はすごいお金持ちの一族だと聞いた。
どうしようかな。
なにか帰る理由を……とぎゅっと幼い息子を抱く手に力を込めたとき、
「ただいまー」
といきなり背後で声がした。
ひっ、と振り返ると、CMに出てきそうなスリムで長身の美女が立っていた。
「あ、こんばんはー」
と愛想よく微笑まれる。
この家の長女、藤宮綾都だ。



