寝不足でお見合いしたら、結婚が決まりました

「もうっ。
 藤宮さん、ダメじゃないの、お客様に。

 ほんとうに注意散漫なんだからっ」

 まあ、そこは今、否定できないな……。

 浜子は上目遣いに窺うように慶紀を見て、
「口紅のあととか、彼女さんが見たら、怒りますよね?」
と訊く。

「彼女……はいないな」
 そう慶紀が言うと、浜子は目を輝かせた。

「結婚相手ならいるが」

 えっ? と浜子が不思議な声を出す。

 親戚の家の裏の川で大量のカエルがうるさく。
 泊まると寝られないのだが。

 そのカエルが確か、こんな声を出していた。

 ヴェッみたいな。

 聴きようによっては芸術的な発声だ。

 村上さん、可愛らしい見た目に反してユニークだな、
と思っていると、慶紀がいきなり、綾都の手首をつかんできた。

 ボクシングで勝者を決めたときのように、綾都の手を掲げて言う。

「俺の結婚相手はこいつだ――」