そのうち、電話がかかってきて、慶紀は話しながら、歩いていってしまった。
秀子は無言でマンションの上の方を見ている。
「どうしたんですか?」
「白神さんがここに越してきた日、ほんとうに運命だと思ったんだよね」
と秀子はしんみりと語り出す。
……私より長く白神さんを好きだった人がここにいるのに。
私のように、見合いで出会った程度の人間が白神さんと結婚していいのだろうか? と美鳥に、
「見合いしたんだから、結婚して当然じゃない?」
と言われそうなことで綾都は悩んでいた。
慶紀の部屋を見つめながら秀子が呟く。
「ずっと思ってたんだよね……。
こっちのエントランスの屋根から、あの木に飛び移ったら、白神さんの部屋が覗けるなとか」
綾都の頭の中で、部屋でくつろいでいる慶紀を窓から秀子が覗いていた。



