右も左もわからないまま、面会時間を言い訳に、衣都は病室から俺を追い出した。
明日から、衣都のいない日々が始まるのだろう。
学校にも、家にも、部屋にも衣都はいない。
ただ真っ白な病院に、たった1人寂しそうに笑っているんだろう。
俺は唇を噛む。
がたがたと揺れるバスの中で涙をためてしまえば、右に揺れるのと同時にあっさりこぼれた。
真隣に座っていたおばあさんが驚いた顔をしてハンカチを取り出す。
でも、なんと言っているのかわからない。
耳は聞こえている。
ただ人々の声をかき消すようにして、ミーンミーンと蝉がうるさく鳴いている。
夏の風物詩のように日常的なその音が、ノイズのようにうるさくて耳障りだった。
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