ホワイト・サマー・エンド

彼女との最後の思い出は、やけに寒い夏の日だ。




衣都(いと)の吐く息が、蒸気で呼吸器をほのかに白く染めていた。



けれど寒すぎて、自分の息も白くなりそうだった。



白い病室の窓の外には、絶妙なバランスで整えられたかのような、鮮やかで眩しい青空が広がっていた。


入道雲だけが、この病室を写したかのように不気味に白かった。


そう、不気味といえば、衣都の姿も不気味といえば不気味だった。





肌も白くなって、目が細くて、腕も、そうだ、細くて―――





思い出そうとするたびに、心臓と頭が痛んで、どうしても思い出すことを拒否してしまう。





そりゃそうだよ、と自分の中の何かがささやく。



―――そりゃそうだ、好きな女が自分の目の前で死ぬなんて―――






自分の心のささやき声に、思わず耳をふさぎたくなる。







ああ、思い出すたびにまだ夏が冷たく凍っていく。