朝、目が覚めると、窓の外は晴れていた。


夏を目前にした濃い青空。

湿度の高い空気が、今日の特別な日をはっきりと知らせてくれる。


制服ではなく、体育祭用に体操服を着て、ゆっくりと髪をふたつに結んだ。

鏡に映る自分の顔は、どこか緊張している。

見慣れたような、そうでないような表情をしていた。


今日は、体育祭だ。


──何も起こりませんように。

できれば、空気のように過ぎていきたい。

誰の記憶にも、残らないように。


ひよりは心の中で、そんな願いを繰り返していた。

 


教室の空気は、いつもより明るく騒がしかった。


色とりどりのハチマキ。

笑い声。

緊張と高揚が混ざった特別な朝。


わたしは装飾係として、目立たない仕事を黙々とこなしていた。

誰かの役に立つ。でも、注目はされない。

それが、わたしにとっての“安心できる場所”だった。