…やっぱり、やめよう。
そもそも、勝手に命を絶つなんてダメだよね。
またお母さんに怒られてしまう。
どうしようもなくなった時の癖で、左腕の“あれ”を手でなぞった。
もう10年前の出来事なのに、たまに今でも痛む。
3歳の私、佐海帆香は、母親にナイフで左腕を深く刺された。
幸い、どこで覚えたかは覚えていないけど私が止血したから、大事には至らなかったけど、痕が残った。
それは10年経った今でも、腕に残っている。
…もう、帰ろう。
ふらり、後ろを振り向いた瞬間。
頭に駆け巡った強烈な違和感と既視感に、私は思わず目を見開く。
え…。
床に敷かれた大きなカーペットに、ぼろぼろの何個もある椅子に、一つの机。
棚とかはない。
シンプルな空間だけど、想像してみたら、誰かがここを拠点にしていることも…考え、られる。
…いや、まさか。
だって、廃墟だし、怖がって誰も来なさそう。
…って、私は何を考えてるんだ。
別に誰が拠点にしていてもいいじゃない。
私には関係ないんだから。
ちょっと入らせてもらっただけだし、この場所に来たのは初めてだし、関係ない。
関係…ない?
ほんとに?
私は、ここに来たことがないの?これが初めて?
ぐるぐる思考がまとまらない。
よくわかんない。わかんないけど、なんとなく、私、この場所知ってる——‼︎
あと少し。
あと少しで、思い出せる。
なのに、全く思い出せない。
なんだろう、何か、あとちょっとあれば——。
——ダンッ
後ろで何かが落ちたような音がした。



