混乱しながらも顔を上げると、絶景が広がっていた。
屋上からの景色は、この世界の綺麗な景色を詰め込んだような、少なくとも私は見たことがない景色だった。
たくさん立ち並ぶ建物に、太陽が沈みかけている。太陽の周りの雲はオレンジ色に染まっていて、きらきらと輝いている。
これが、夕焼けだ。
初めて知った。
世界は、綺麗なんだ。
ずっとその景色に見惚れていると、太陽があっさりと建物に隠れてしまった。
「ああ…」
ちょっと悲しく思ったけど、仕方ない。割り切るしかない。
太陽が沈むと、すぐに薄暗くなってくる。
薄暗いと、どうしても心細くなってしまう。
やめよう。私は、心細くなるためにここに来たわけじゃない。
ふるふると首を横に振って、屋上の端にある柵に手をかけて、登ろうとする。
……本当にいいのだろうか。
私のことが嫌だって言っているけれど、こんなむかつく娘を育ててくれるお母さんを置いて死ぬなんて。
いいんだろうか。
嫌いなのに、クラスメイトでいてくれる人たちを嫌がって死ぬなんて。
私の存在を無視するんじゃなくて、役立たずな私に何かやらせよう、と思っていろんなことをやらせてくれるみんなを裏切って自殺するなんて。
必ずしも、死後の世界が安定して幸せなわけじゃないかもしれないのに。
死後の世界に期待して、今が一番状況が悪い、って自惚れて全て手放すなんて。
持っているものは、少ない。でも、今まで出会った人は少なくはない。
その人たちに私は会いたいとか思わないんだろうか。
話したいとも思わないんだろうか。
…そんなわけない。
いくら私を嫌っている人でも、話したくない、会いたくない人なんていない。
私を愛してくれる人はいないけれど、私は少なくとも意味のない出会いなんてなかったと思う。



