強く、首を絞められる。
『死ねっ……死ねよ……ッ』
『……ッ、はっ……』
酸素が足りなくて、目の前がチカチカした。
息ができなくて、息を吸いたいのに、私は謎に吐いてしまう。
永遠と感じられるような、でも多分5分にも満たないような時間が終わって、手を離される。
『いい?あんたは家事をすればいいのよ』
それからは、母親は私の存在を無視した。ご飯があるのも当たり前。お風呂が入っているのも当たり前。たった一つ、どうでもいいからやらなくていいと言われたのは、ごみ捨て。一度ごみ捨てをしたら、『なんで私の言ったことができないの!』と叩かれたから、やっていない。だから、もう私の家はごみ屋敷になっている。汚いのは汚いけど、母親が安心するのが第一優先なのだ。
——そう、私の気持ちなんて、どうだっていい。私の思いなんて、消えればいい。蓋をして、きつく蓋をする。
最初は抵抗していた私だけどもう感覚が麻痺してきたのか、私の思いが消えても、別にどうってことない。それに、みんなにとってもこの方がいい。私なんて、いなければいい。何度、その言葉を聞いたのか。だとしても嫌でも存在してしまう私だから、せめて思いを殺して、私がいないも同然の様に振る舞いたかった。だから何度も沸騰して溢れそうな思いを閉じ込めた。今にも溢れてしまいそうな気持ちに蓋をした。
もう沸騰なんかすることのない思いには、きつく蓋をする必要もない。一度蓋を取ってみた。中を覗き込むと、蒸発して消え去った私の思いは、人が大切だということだけになっていた。
……ずっと、毎日。
やっぱり、今日も消えたい。
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今日は、ちょうど手にした本で、ボロボロの廃墟みたいなところで飛び降り自殺する本を見た。
なんだかちょっとワクワクしてきた。頭おかしいんじゃないかと思う。
でも私は急にパソコンを出してパスワードを入れ込むと、この近くの廃墟を調べ始めた。
そして見つかったから、パソコンの電源を消して、鞄も、何も持たずに家を出た。走って、走って、走った。家を捨てた。母親や家への罪悪感は残っているけど、そろそろ限界だったのだ。
カンカンカンと、錆びついた古い階段を登る音だけが妙に耳に残った。
廃墟の近くには、人通りも、ない。
階段を上り切って、屋上へと続く扉も、錆びついていた。でも、迷わずガッと開ける。
「はあっ…はあ、はあっ」
肩で息をして、顔を上げて屋上を見る。意外と広かった。
——心臓が、ドクンって鳴った。
カーペットが敷いてあり、古いベットまである。
すごく……、見覚えが、ある。
既視感がする。
なんで? 私、ここは来たことない、のに。



