会いに行くから、待っていて。

あれ、教科書がない。

——やられた

いつも通りの教室のごみ箱を開けて、覗き込む。

……ああ、やっぱりあった。

私の教科書を掴んで引っ張りあげて、ぱたぱたと埃を払う。

後ろからくすくすと笑い声が聞こえた。気分が重くなる。


——でも私は、みんなのことを嫌いになんてなれない。


「今日は校外学習実行委員を決めるよ」

担任の先生ですらも、私を嫌っていると思う。

雑用などをやる係を私に指名したり、私だけ宿題を多くしたり。

別に雑用とかちまちましたものや、勉強も好きだから良かったんだけど。

人のために努力するのは、好き。……いや、それが嫌われ者の私が生きる意味だと思うから。

担任の先生のその言葉に、みんながええーっとあからさまに嫌そうな顔になってブーイングする。

校外学習実行委員は休み時間が潰れ、大変と評判が悪い。みんなやりたくないのだろう。

「誰かやりたい人ー。推薦でもいいですよ」

さっと視線が私に向いた。それはわかる。誰かが手を挙げる音。私は。

その前に、だいぶ前に、私はもう手を挙げていた。

「わっ、私やりますっ‼︎」

「ああ……佐海ね、じゃあ決定で」

みんなの確認もせずに黒板に書かれた私の名前。

きっとみんな、私にやって欲しかったんだろうし、休み時間も何もすることはないから損をすることもないだろう。


「じゃあカレー作りの実行委員ー」

「「「「「「はいっ‼︎」」」」」」


カレー作りの実行委員は、人気がある。

そりゃあ頑張らなきゃいけないけど、休み時間は潰れないし、最後にはご褒美でカレーを少し多めに食べることができる。

校外学習でカレーを作るなんて、鉄板だなーなんてぼんやり思った。

でも、私以外全員手を挙げていて、先生も困っていた。

「うーん……じゃあ先生から指名させてもらうね。……真城くん!」

「えっ、俺⁉︎」

手を挙げていたのに選ばれると思っていなかったのだろうか、真城さんは。


……こう言う時、先生は気に入っている男子を当てる。


真城さんは、先生に気に入られている。間違いなく。

「あともう1人……、じゃあ海路(かいろ)くん、やってね」

「え、俺⁉︎ やったーー‼︎」

海路さんか……海路さんは真城さんの友達だから、真城くんが安心すると思ったのだろう。

「え、井伊(いい)が一緒⁉︎ 最高すぎんじゃん!」

クラスのあちこちからえー、ずるいーなどと言う声が聞こえてくる。

でもみんな笑顔を浮かべている。みんな異議無しみたいだ。

私は……。

私は、どうなんだろう。


最近、私がどうしたいかがわからなくなった。

……みんなに合わせればいい。だってそうしたら、誰も傷付かないんだから。


その方がいいに、決まってる……。



次の授業は国語で、ディベートなど話し合いをする様だった。また気分が重くなる。