目の前に、男子がいる。
なぜだろう、彼が私の一部な気がしてならなかった。
会ったことがないはずなのに、どこか懐かしく感じた。
久しぶり、と口が動いた。でも、声が出ない。
彼に話しかけたいのに、声が出ない。
彼が歩き始める。足が動かない。距離が開く。開く。彼の姿が、突如現れた霧で、隠れる。
手を伸ばしたのと、初めて出た声が出たのと、どちらが先だったんだろう。
「待って、葵っ」
そう叫んだ私の声だけ、異様によく響いた。
**
「はっ」
そんな変な声が出て、バッと起き上がる。
「夢、か……」
あの人は、葵と言うのか。
最近、毎日のように夢に見ている、あの人。
どうしてだろう。今までそんな夢なんて見てなかったのに、どうして今?こんな、中2の時期に……。いや、中2は関係ないか…。
なんだか、何かを忘れている。
でも、私は何を忘れているんだろう。
ああ、今日も死にたい。
**
学校。今日も今日とて、また学校。
ほんと、やになる。
「本気で、なんで佐海っていんの?」
「それなー。このクラスにいらないっての。普通に邪魔ー」
「ほんとそれ。今すぐ消えればいいのに」
「先にあの世に行っててねー、あの世でまた会いましょう」
「待って、あの世でも佐海に会うのは耐えられないってー。ってか、俺ら天国行って佐海だけ地獄だから会わないかー」
「確かに。真城ってたまにはいいこと言うんだね。流石、龍ー」
「ちょっ、やめろって。龍ってのはついてるだけだよ!龍牙の龍なだけ!」
ぐさぐさと、私の胸に突き刺さる、言葉の矢。
その矢は、一ヶ月前のものも、昨日のものもまだ刺さっていて、抜けない。
クラスメイトは、全員私のことが嫌いだ。と思う。
だって、みんな私のこと無視をする。



