焼けたパンを小さなお皿に乗せてありがたく食べると、お皿をシンクに入れておく。
覗き込むと、シンクから溢れそうなほど食器が溜まっていたため、置いてあったスポンジと洗剤で洗って片付けておく。
洗濯機もあったためまた覗き込むと、また溢れそうなほど洋服が溜まっていた。
…洗うのが面倒くさかったのかな。
洗濯機は知らないメーカーのだったため、後で使い方を聞こうと思って置いておいた。
端に置いてあった箒とちりとりと使って床を丁寧に掃いていく。
私のいらないタオルを雑巾として使おうかなとポケットから雑巾を取り出した。そして濡らした後、しっかりと水滴が出ないくらい絞る。
いらないタオルが何枚もあったため、色で分かりやすいように床用などと場所を決めておく。
赤色の床用タオルを使って床を拭いていく。
葵が寝ているソファ以外の椅子などをどかして拭いていく。屋上は広いからちょっと大変だけど、大丈夫。綺麗になる、からっ…よし…、できた!
満足げに立ち上がった時には、日の出の時間だった。まずい、掃除しがいがあるからって丁寧にやりすぎたっ…。
そうだ、濡れ拭きをしたら乾いたタオルで拭き取らないとっ。
赤色タオルで、今度は濡らさずに床を拭いていく。綺麗にして快適に過ごしたいのに滑って倒れてしまったら本末転倒だし…! 倒れたらもう転倒してるけど…!
青色のタオルで、屋上の柵も拭いて行く。真っ黒で埃が積もり、太陽も反射しないくらいだった柵が、一拭きしただけで太陽が反射する。
わ、気持ちいいっ…じゃ、なくて!
そんなこと思ってるくらいなら、一刻も早く掃除を終わらせないと…!
「…何してんの?」
「わああああぁぁあぁっ」
後ろから低い声がして、思わず漏れた悲鳴。
「あ、あああおいっ」
「ビビりすぎなんだけど…で、何してんの?」
「そ、掃除、です…」
私が持っているタオルを見て納得したようにソファから降りてきた。
「うわ、床綺麗すぎなんだけど。何これ…全部やったの」
「う、うん」
「…すご」
どうやら、寝ている間にやったことに怒っているわけではないようだ。少しホッとする。
「何時に起きたの」
「な、何時だっけ…?」
時計は確認してなかったけど…。
「いさせてもらってるし、このくらいはやらせて!」
「…」
黙り込んだ葵。あ、あれ、ダメだったかな…?
「ありがたいけど、別にそんな朝早くやらなくても…」
「え?」
掃除って、朝やるものじゃないの?
夜のうちに溜まった埃を…って、よく聞くし、寝ている間にやった方がいいって思ってたけど…。
「あ、寝ている間に埃が舞うのが嫌だ、とか? ご、ごめん、いない間にやるねっ…」
「え? あ、まあ…」
歯切れの悪い葵が、珍しくおずおずと聞いてくる。
「えっと…、帆香はいつも何時に起きてるんだ?」
「え? うーんと…4時とか5時には起きるようにしてるよ」
「…何時に寝てる?」
「えっと、11:30とか。そこくらいかな」
葵がぎょっとしたように目を大きく見開く。
「5時間くらいしか寝てないのか⁉︎」
「五時間寝てれば、人間生きていけるよ」
逆に、葵は何時間寝てるの…? 昨日、夜遅かったし…。
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