…って。
確かに霊感がある人は小説にもよく出てきたけど…、私、さっき霊の女の子触れた、よね?
「私…さっき女の子触れた…よね…?」
「そうだな。パワーアップした霊感みたいな感じなんじゃないか?」
パワーアップ…!
しなくていいって…!
触れるってことは実害があるってことだよね? 危ないのでは…。
「そんな霊感ある人初めて見た…。確率はどのくらいか…」
「難しい話はいいって!」
葵は確率の話大好きなのかな…?
「そうだ、帆香。今日から、またここで暮らさないか?」
「えっ…」
ここで…。
「え、でも親に確認しなきゃ…。あと、ご飯も作ったりしたいし…」
「そんなん親にやらせときゃいいだろ」
「え…じゃあ一応、伝えてからでいい?」
ということで一応一回家に帰ることになった。
10分くらい歩くと家が見えてきたため、鍵を開けて入り、学校のノートを丁寧にちぎってそこに鉛筆で文字を書く。
【ごめんなさい。しばらく帰ってきません。ごめんなさい。許してください】
いつか帰ってきた時に、親が嫌な思いをしないように、丁寧に書く。
廃墟に向かうとき…、何度も歩いてきた道を振り返った。
「帆香。連絡できたか?」
「うん」
「連絡なんてスマホですればいいのに」
「あ…」
私は…
「スマホ、持ってないの…」
「は⁉︎」
葵がびっくりしすぎて後ずさっている。
え? そんなびっくりすること…?
「俺も流行とか知らんけど、今どきスマホ持ってない中学生とかいんのか…」
「? いるよ?」
「中2だっけ」
「うん」
覚えててくれてるんだ…というか、前世の私、言ってたんだ…。
前世の私って言っても、全く覚えていないから、他人っていう気分しかしない。
私と葵が積み重ねてきた過去を、私は知らない。
その知らない部分があったから、葵は私に優しくしてくれてるのかも…。
…、すぐ思い出せるといいな。
夜になったので、椅子に座って寝させてもらう。
「ソファでも…」
「大丈夫! 葵はソファで寝てて。私、寝相悪いから落ちちゃうだろうから…‼︎」
そう強引に押し切って寝ている。
やっぱり葵は長生きなんだなぁ。使い古した感じ。椅子がギコギコ言っている。
でも、その感じが懐かしく、居心地がいい。
「寝んのか」
「うん」
時刻は11:30。いつも寝ている時刻だ。
よく掃除や洗濯をしていてもっと遅い時刻になることもあるから、結構早いほうだと思う。
今日の夜ご飯を食べさせてもらったけど、“そこらへんのコンビニで買った、パン”だそう。
眠りにつきそうな時、ふと思った。
前世は、私も葵も、私が前世の記憶を持って生まれ変わるなんて思ってない。だったら、私が死んだ時、最後の別れだと思ったはずだ。葵は、私が死んだ時、どんな反応をしたんだろう…?
そう考えた時、いつも通り沼に落ちていくように眠りについた。
**
目を開けると、いつも通り陽が出ていなかった。
あたりを見渡すと、ソファで葵が寝ている。
…あ、おい? そっか、私は昨日、家じゃなくて廃墟の屋上で寝たんだった。
じゃあまだ起きなくてよかったかな。いや、いつも通り掃除とかしたほうがいいよね。いさせてもらってる身だし。
屋上の隅っこにあるキッチンを見つけて近づいていくと、ガスコンロや包丁、まな板、フライパンや鍋など、調理ができるものが新品同然の状態で置いてある。
昨夜もコンビニだったらしいし、多分葵は料理ができない。そんな葵が、調理器具は揃えたけど、何回か使ってやめた感じかな…?
冷蔵庫を開くと、ひんやりした冷気が漏れてくる。賞味期限はまだ大丈夫そうな食材がばらばらと置いてあった。
その中にはパンもあったので迷わず取り出す。
レンジやオーブンもあったため、オーブンに一個のパンを入れて焼いておく。
私の分だ。
私は冷めても平気だけど、葵の分は温かいうちに食べて欲しいから、まだ温めないでおく。



