魔法使い時々王子

夜も更けた頃、店の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、少し疲れたような顔をしたシドだった。

「……やあ、レオ。遅くなった。」

「おう、いらっしゃい。来ると思ってたよ。」

レオは笑いながらグラスを拭き、カウンターの端を軽く指で叩いて席を促す。
シドはそこに腰を下ろし、ふうと一息ついた。

「リアン、さっきまでここにいたぞ。朝まで飲む勢いだったが、明日の仕事思い出して慌てて帰った。」

「……そうか。」

グラスを手に取りながらシドは短く返す。
その様子を見て、レオは少し口元を緩めた。

「で?お前、王宮で人気者らしいな。噂、いろいろ聞こえてくるぞ?」

「……そんなことない。少し騒がれただけさ。すぐに忘れられるよ。」

淡々とした口調で答えるシド。
しかし、視線が少し泳いでいたのをレオは見逃さない。

「ふぅん……リアン、どう思ってんだろうな、そういうの。」

「……リアン?」

シドがグラスを置き、レオの顔を見つめる。

「お前にとってリアンは――いや、やめとくか。聞いたって意味ないこともある。」

レオはそう言って話を切り上げる風を装ったが、続けざまにこう聞いた。

「それにしても、王女様とも最近よく話してるって話も聞いたぞ?
アリス王女――あれだけの身分の人と普通に接してるの、お前くらいじゃねぇの?」

シドは少しの間、黙っていた。

「……たまたま何度か顔を合わせただけ。特別なことは何もないよ。」

その言葉にレオは意味ありげに笑う。

「へぇ、そりゃまた不思議な答え方だな。」

シドは何も返さず、ただ静かにグラスを見つめていた。