魔法使い時々王子

ガシャン!!

「…きゃっ?!」

突風で飛ばされた木で塔の窓が割れ、吹き込んだ風により蝋燭の火がすべて消えた。
その瞬間、室内はまるで世界から切り離されたかのように真っ暗になった。

アリスは驚きと恐怖に思わずシドの腕を強く掴んだ。

「ご、ごめんなさい……っ」
「……大丈夫だ」

低く落ち着いたシドの声。
暗闇の中でも、彼の存在は不思議な安心感を与えてくれる。
アリスはゆっくりと息を整えながら、その腕のぬくもりに、じんわりと胸の奥が熱くなるのを感じていた。

不意に、シドの腕が優しく動き、アリスの肩を抱いた。
そのまま、静かに引き寄せられ、彼の胸に頬が触れた。

アリスは一瞬、息を呑んだ。
けれど拒まなかった。
むしろ――心が勝手に、このぬくもりにすがりついていた。

暗闇の中、雷鳴が遠くで響いている。
窓の外は暴風雨に満ちているというのに、この小さな空間の中だけは、不思議な静けさに包まれていた。

どれくらいそうしていただろう。
やがて、アリスはそっとシドから身を離した。

「……ありがとう。落ち着いたわ。」

「なら、よかった」

短いやりとりの中に、互いの心音だけが響いていた。
何かが変わっていく。いや、もしかしたら、もう変わってしまったのかもしれない――

そんな空気を、アリスは確かに感じていた。

そのとき――塔の扉が重く軋み、誰かの足音が聞こえた。

「アリス様! シド殿!」

レイだった。王宮から戻ってきたのだ。
レイの姿にアリスは驚きつつも、どこかほっとしたように微笑んだ。

「ありがとう、レイ。戻ってきてくれたのね。」

「お姿が見当たらなかったので……すぐに小船を用意いたしました」

レイの案内で、アリスとシドは塔を後にする。
雨はまだ降り続いていたが、彼らの心には別の温かさが灯っていた。