ルイが去った後も、しばしの間シドは言葉を発せず、胸の奥のざわつきだけが残っていた。

(王太子……本当に、気づいているのか?)

その思考の渦の中にいると、軽やかな足音が背後から近づいてきた。

「お待たせ!」

アリスだった。風に揺れる白のドレスに、光を受けてきらめく髪飾り。その笑顔は、さっきと同じ――けれど、今のシドにはどこか眩しすぎた。

「ねぇ、シド。時間もあるし、あの塔の中を案内してあげる。行きましょ?」

「……え?」

突然の提案に戸惑いながらも、シドは微かに首を振った。

「……いや。今日はあまり、長居は――」

「だめ。」

アリスは言い切った。

そのまま笑顔で手を伸ばすと、シドの腕をつかんで引っ張る。思わず抵抗しかけたが、その力は思いのほか強かった。

「もう真っ白のパーティーはうんざりでしょ?このまあまいたらその白いシャツを紅茶で汚すのは時間の問題よ。」

ぐいぐいと手を引かれながら、塔の扉の前まで連れてこられる。シドはまだ動揺していた。

(やめておくべきじゃないか。ルイ殿下の言葉……あれは警告か、探りか――)

けれどその思考を、またもアリスの明るい声が遮った。

「さ、入りましょ!」

扉が開き、涼やかな空気が塔の中から流れ出す。

アリスの笑顔と白いドレスの背を見つめながら、シドは小さく息を吐き、静かにその後を追った。