パーティーが始まり1時間が経った頃、ようやくアリスが到着した。

いつもと雰囲気の違う白いドレス姿に、シドは少し見入ってしまった。

アリスは何人かと短い会話をすると、会場の端で壁にもたれ掛かるシドを見つけた。

「…つまらなそうな顔してるわね。」

アリスは悪戯っぽくシドに言った。

「…ああ、正解だ。こういう場は苦手だ。」

「私もよ。一年の中にたくさんの行事があるけど、これはかなり上位で嫌いなパーティーだわ。」

アリスの言葉にシドは思わず笑ってしまった。


***

白を基調とした会場の中、王太子ルイは妻ソフィアと並んで座っていた。整えられた庭園に、上品な音楽とグラスの音が重なり合う。王族の微笑みを浮かべながらも、ルイの意識は別のところにあった。

視線の先には、少し離れたところで談笑する妹・アリスと、その隣に立つ黒髪の青年。
――魔法大臣の補佐官、シド。

ソフィアが隣で軽く笑いながら話しかける。

「珍しいわね。あなたがこんなに視線を逸らさないなんて。」

「……気になるんだ、彼のことが。」

ルイはそっとグラスを置いた。数日前、手元に届いたアスタリト国王からの直筆の手紙。それが頭から離れなかった。

「シド。魔法使いでありながら剣の腕もある。そして王宮に入って間もないというのに、なぜあそこまで自然に振る舞える?」

「それはあなたの妹が気に入っているからじゃない?」

ソフィアのからかうような声にルイは苦笑を浮かべたが、目の奥にある光は鋭いままだった。

「確かに、アリスとだいぶ親しいようだな。」

ルイはゆっくりと立ち上がった。まるで自ら動き出す決意を固めたように。背筋を伸ばし、周囲の目線を集めながらも、堂々と歩み始める。その足取りには、王太子としての威厳と、ひとりの兄としての静かな焦りが滲んでいた。