魔法使い時々王子

控え室を出ると、太陽の光と熱気が一気に押し寄せた。
歓声が波のように押し寄せ、会場の空気は最高潮に達していた。

(……決勝、か)

シドはゆっくりと呼吸を整えながら、手にした剣を一度見下ろす。
軽くて、よく手に馴染む。けれど、どこか落ち着かない。

(あの人……ロザリア様は、どこまで知っているんだ)

王族であることを、自分はここで誰にも言っていない。
けれど、彼女は「祖国」と言った。まるで、自分の出自すべてを見透かしているような――

観客の歓声が一層大きくなった。
もう一方の扉から、アルバが姿を現したのだろう。

(今は考えるな。目の前のことに集中しろ)

そう言い聞かせながらも、胸の奥のざわつきは消えなかった。
頭では理解していても、体はいつもの調子に戻らない。

「さぁ! 決勝戦です! 初出場にして決勝まで勝ち進んだ魔法使いシド! そして、今や王宮の人気者、アルバ選手との一騎打ちです!」

司会の声が高らかに響き、試合の開始が告げられる。

互いに一礼し、剣を構える。
アルバの目には、静かな闘志が宿っていた。

「……来いよ、シド。全力でな」

「……もちろん」

試合開始の合図と同時に、剣がぶつかり合う鋭い音が響いた。
力と技の応酬。観客席からは興奮した叫びが飛び交う。

(アルバ……やっぱり、強い)

だが、互角。互いに譲らず、何度も鍔迫り合いを繰り返す。

しかし――

(ロザリア様は、どこまで……。いや、まさか、王族だと……?)

ふと、意識が逸れた一瞬。

「――甘い!」

アルバの剣が鋭く閃き、シドの手から剣がはじかれた。

「っ――!」

鋼の音を響かせ、シドの剣は宙を舞った。
観客がどよめく。

(しまった……!)

シドは咄嗟に後退して距離を取るが、明らかに形勢が傾いた。

アルバは真剣だった。目の前の戦いに、集中していた。
自分は――どこかに心を奪われていた。