魔法使い時々王子


「あらまぁ、大人気ね。」

後ろから声が聞こえて振り返るとロザリアが立っていた。

「…ロザリア様、何でこんな所に…」

「もちろん弟子の応援に。推薦者として。」

ロザリアの言葉にシドは大きな溜息をついた。

(この人だったのか、、俺が大会に出る事になった原因は、、)

「各部隊の総隊長2人から誘われるなんて滅多にないわよ。どうするの?近衛隊に転職する?」

ロザリアは悪戯っぽく聞いた。

「…いえ、自分は魔法使いとしてこの先もここで仕事していきます。」

「祖国には、もう二度と戻らないの?」

ロザリアの問いかけに、シドは言葉を失った。
そんな話を、彼女にしたことはない。
……なのに、なぜそんなことを――。

「……どうして、そのことを?」

静かに問い返すと、ロザリアはわずかに目を細め、微笑んだ。

「まぁ、なぁんとなくね。」

シドはロザリアの横顔を見つめた。
この人は、どこまで知っているのか。あるいは、ただの勘なのか。
けれど、その視線に責める色はなかった。

「……戻るつもりはありません。戻る理由も、居場所も、もうないので」

「そう。なら、ここで生きるつもりなのね」

「……はい」

ロザリアは小さく頷くと、シドの肩にそっと手を置いた。

「それなら、魔法使いとしての道を、きちんと歩きなさい。私の弟子としてね」

――きちんと、歩く。
その言葉に、シドはわずかに息をついた。重さではなく、安心のようなものを感じながら。

「はい。……よろしくお願いします」

ロザリアは満足げに笑うと、すぐにくるりと踵を返した。

「さぁ、観客席に戻らなきゃ。次は決勝戦でしょう?」

「……本当に応援に来てたんですね」

「もちろん。弟子の晴れ舞台なんだから」

そう言って去っていく背中を、シドはしばらく見送っていた。