魔法使い時々王子

大砲の音が鳴り響いた直後、試合は華やかに幕を開けた。

会場は王宮中庭に設けられた特設舞台。観客席には王族、貴族、兵士、侍女、一般招待者までが詰めかけ、熱気と歓声に包まれていた。

「アルバさまーっ!」

「頑張ってー!!」

アルバが登場すると、女性たちの黄色い声援があちこちから飛んだ。軍服姿で凛とした立ち姿の彼は、長身で剣を構えた姿も堂々としている。

一方、別の試合では――

「……あれは誰?」

「ロザリア様の弟子らしいけど、見たことないわね」

「でもすごい剣さばき……惚れ惚れするわ……」

淡い仮面のような無表情を浮かべながらも、軽やかな身のこなしで次々と相手をかわし、斬り込んでいくシド。
その剣は、どこか流れるように美しかった。

観客席では、侍女たちがうっとりと見つめ、貴族の婦人たちもざわついていた。
控えめに観戦していたリアンも思わず前のめりになり、息を飲む。

「……あんなに、剣、上手かったんだ……」

シドの姿を目に焼きつけるように見つめながら、リアンは思わずつぶやいた。

ロザリアはシドの様子を横目で確認しながら軽くうなずく。

「やはりね」

隣のエドが目を丸くする。

「彼、何者なんです? 剣の動きが普通じゃない……」

「それは――おいおい、知ることになるかもね」

ロザリアは意味深に笑い、視線を再びシドへと向けた。

一方――観客席の最上段、王族専用の席。

王子ルイは組んでいた腕をほどき、じっとシドの試合を見つめていた。

「ジル。あの男……あれは誰だ?」

隣に控える側近のジルがすぐに答える。

「魔法大臣ロザリア様の補佐官だそうです。名前はシド、と」

「…ロザリアの補佐官…」

ルイは小さく反芻した。ふと視線を横に流すと、少し前のめりになって夢中で試合を見ているアリスの姿があった。

その瞳は、どこか熱を帯びていて――何かを追いかけているようだった。

「あなた? どうかしたの?」

隣に座っていた妻・ソフィアが、小声で尋ねる。

「いや……なんでもないよ」

そう返しながらも、ルイの目からは試合の男――シドの姿が離れなかった。