控え室に満ちる空気は、乾いた革と鉄の匂いが混じり合ったような、緊張感のあるものだった。
シドは隅の席に腰掛け、布で剣の刃を丁寧に磨いていた。
久しぶりに手にした剣。手のひらに伝わる冷たさと重みが、懐かしさを呼び起こす。

周囲を見渡せば、屈強な身体付きの兵士ばかり。
肩や腕の太さ、鍛え上げられた体躯に、場違いかもしれないという気配すら感じる。
だが、臆する気持ちはなかった。

(力だけが全てじゃない。そういう戦い方も、俺は知ってる)

剣に映る自分の瞳を見つめながら、心の内でそう呟いたそのとき――
控え室の扉が開き、明るい陽射しが差し込んだ。そこに立っていたのは、アリス専属近衛の青年、アルバだった。

「いた。探したよ、シド」

「俺に何か用か?」

「うん、話があって」

アルバは隣に腰を下ろすと、軽く深呼吸し、それから真っ直ぐにシドを見た。

「……この大会で優勝したら、リアンに告白しようと思ってる」

剣を磨く手がぴたりと止まる。

「……そうか」

「リアンの事が好きだ。想いを伝える前にひとつ確認したい。」

アルバの目は真剣だった。
その視線が向く先には、迷いや不安の影が揺れていた。

シドは静かに頷いた。

「リアンのこと、どう思ってる?」

問いかけは、真正面からだった。

少しだけ間を置いて、シドは剣に視線を落としたまま、答えた。

「大切な友達だよ。俺にとって、かけがえのない存在。でも……それ以上でも、それ以下でもない」

アルバはほっとしたように、目を伏せて笑った。

「……そっか。ありがとな、正直に言ってくれて」

立ち上がると、シドの肩に軽く手を置いて言った。

「……じゃあ、お互い頑張ろう。俺は全力で勝ちに行く。君が相手でも」

「望むところだよ」

笑みを交わした二人の間に、穏やかな火花が散った。