そんな空気の中、カウンターの奥からレオが戻ってきた。グラスを軽く拭きながら、シドたちの席へと近づく。

「やけに真面目な顔してたけど、なんか重い話でもしてたか?」
肩をすくめながらレオが言うと、シドとキースは一瞬目を合わせて笑った。

「昔話を少しな」
シドがあっさりと言うと、レオは「ほう」と興味なさそうに相づちを打った後、テーブルの酒瓶を手に取った。

「じゃあ、もう一杯くらいどうだ? ちょうどいいラムが入ったんだ」
そう言って注ごうとするが、シドは手を軽く上げて断った。

「悪い。明日は朝から稽古がある」

「稽古?」キースが首をかしげる。

「剣術大会だよ。何故か俺も出ることになっててな」

レオが吹き出すように笑った。
「お前が? まじない屋のくせに、今さら剣士気取りか?」

「俺もそう思ってたんだけどな……気づいたらエントリーされてた。誰の仕業かは知らないが。」
そう言いながらシドは立ち上がり、マントをひとさばきで肩にかけた。

「というわけで、今日はもう帰る。稽古に遅れると、あの鬼教官に腕を叩き折られる」

「鬼教官?」レオが首を傾げた。

「ハワードっていう、元近衛連隊長で今は若手の近衛隊に剣を教えてるらしい。」

シドは少し迷惑そうな顔をしながら説明した。

「じゃあせいぜい頑張れよ、まじない屋の剣士さん」
レオがからかうと、シドは肩をすくめて軽く手を振り、店を後にした。

残されたキースは、静かにその背中を見送りながら、グラスの中の酒を一口飲んだ。