魔法使い時々王子

休日の午後、レオの店には柔らかな陽が差し込んでいた。
カウンターに座るキースの隣に、シドが静かに腰を下ろす。

「来たな、相棒」

「……なんとなくな。足が勝手に向いた」

レオは軽く笑って、慣れた手つきでシドにいつもの酒を差し出すと、別の客のテーブルへ向かった。
店内は和やかな空気に包まれ、時間がゆっくりと流れていく。

少しの沈黙の後、シドがぽつりと口を開いた。

「俺の肖像画なんて、よくあったな……」
酒を一口飲んだシドが、ぽつりと呟く。

キースは静かに頷いた。
「その家の人は、大事そうに飾ってたよ」

レオが他の客と談笑している隙に、店の片隅はひとときの静寂に包まれる。

「……俺は、王族の中で初めて魔法の才能を持って生まれた」
シドは静かに語り始めた。

「最初は、みんな戸惑ってた。どう扱えばいいのか分からなかったんだと思う。怖がっていたんだろうな……。俺自身も子供の頃は、魔法をうまく制御できなくて。気づいたら物が燃えてたり、人を吹き飛ばしてたりして、しょっちゅう問題を起こしてた」

キースは黙って耳を傾けた。 

「最初は心配してた両親も、だんだん俺を遠ざけるようになってさ。気づけば俺の席だけ、王家の食卓には無かった。次第に部屋に閉じこもるようになったよ」

シドはグラスの底を見つめながら、淡々と話す。
「誰かにどうにかしてほしいと思ってた。でも誰も近づいてこなかったし、俺もどうしていいか分からなかった」

キースが言葉を探し、そっと声をかける。
「じゃあ……今こうしてイスタリアにいるのは、逃げるため?」

シドは笑わず、ただ小さく首を振った。
「逃げたんじゃない。ただ、自分の居場所を探してたんだ」