魔法使い時々王子

午後の陽がやわらかく差し込む執務室。アリスは机の上の文に目を通していた。そこへ、トレイを持ったエミリーが静かに入ってくる。

「失礼いたします。お茶をお持ちしました」

アリスが顔を上げると、そこには整った所作でティーカップを差し出すエミリーの姿があった。無駄のない動き、柔らかい笑み。確かに、リアンが褒めていた通りだ。

「ありがとう。……エミリー、ね?」

「はい。今日からアリス様のお世話をさせていただきます。ご迷惑をおかけしないよう努めます」

「ふふ。もう充分よ。リアンがあなたのこと、すごく優秀だって言ってたわ」

エミリーは小さく肩をすくめて微笑んだ。

「とんでもありません。私はまだまだ未熟です。リアンさんのご指導のおかげです」

その謙遜ぶりに、アリスは少し興味を持ったように彼女を見つめた。

「それでも、仕事を始めて間もないのに、ここまで動ける人はそういないわ。……もしかして、前にもどこかで侍女をしていたの?」

エミリーは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに微笑んで答えた。

「いえ、正式なお仕えはこれが初めてです。でも、仕えるべき方のために、ふさわしい振る舞いを身につけるべきだと、小さなころから教えられてきましたので」

「……ふぅん」

アリスは頷きつつも、どこか芯の強さを感じさせるその言葉に、ただの新人ではない何かを感じ取っていた。

「これからよろしくね、エミリー」

「はい。よろしくお願いいたします、アリス様」