そのやり取りの一部始終を、石柱の陰から見ていた者がいた。アリスである。

アルフィの馬車が見えなくなった頃、アリスは手で口を覆いながら小さく吹き出した。

その笑い声に気がついたシドは振り返ると、顔を赤くして思わず手で口を覆った。


「な、なにあれ……ふふ、夕食会でしきりにあなたに話しかけてたのは気が合ったからなのね…!」

堪えきれずに笑ってしまったその声に、シドは明らかに苛立った表情をした。

「姫様、何か……?」

「ううん、なんでもないの。ただ、なんか……おかしくて」

そう言いながらアリスは、どこか楽しげな笑顔を浮かべていた。

「…全く、勘弁してくれよ。俺は男には興味ない。」

「あら〜勿体無いわぁ。ステラード王国の城はとても豪華なのよ。家まで用意してくれるって言っていたのに。」

「いいか、このことは誰にも言うなよ。」

シドの言葉にアリスは聞こえないというような顔をした。


「手紙が届いたら必ず返事をするのよ。一国の王子ですからね、失礼があってはダメよ。」


「…うるさい。誰が書くか。」


「ふふふっ。はぁ、何はともあれ無事に終わって良かったわ。やっと肩の荷が降りたわぁ。」

アリスはうーんと伸びをした。

「あなたがいてくれたからよ、シド。ありがとう。」

ふとそんなお礼の言葉が出て来たことにアリス自身も少し驚いた。

シドの前だと、何故かとても素直でいられる。

その一言に、シドも肩の力を抜き、自然と微笑を返す。

 「……俺は何もしてない。アリスが立派にこなしたんだ。」

シドの言葉にアリスは少し頬を染めて照れ笑いをした。

ゆるやかな風が吹き抜ける。
二人は並んで空を見上げながら、少しだけ肩を寄せ合ったような距離で立っていた。