魔法使い時々王子

「…悪い。明日早いんだ。先に帰るよ。」

シドはグラスを置くと席を立った。

「え、どうしたのよシド。せっかくキースが帰って来たのに。」

リアンが引き止めようとしたが、シドはレオンに酒代を渡した。


「悪いな。お先。」

シドは足早にレオンの店を出ると、まだ人々で賑わう繁華街の真ん中で深くため息をついた。

慌てて出て行ったようなシドに、リアン達は顔を見合わせて首を傾げた。

「…久しぶりに聞いたな。」

店を出たシドはポツリと呟いた。

アスタリト王国。活気があって賑やかな国か。

知ってるよ。よく、知ってる。


「…俺の祖国だ。」


***

イスタリア王国 ウェルザー城

「…アリス様。今年の夏の休暇は皆様、コカール城で過ごされるそうです。」

アリスの個人秘書を務めるレイの言葉に、この国の王女であるアリスは読んでいた本から顔を半分覗かせた。


「…知ってるわよ。毎年そうじゃない。コカールで過ごす夏は最悪よ。」


「…アリス様もそのように予定して宜しいでしょうか?」


「ダメよ。ダメに決まってるわ。今年の夏私は王宮に残るわ。」

レイはアリスの言葉に少し溜息をついた。


「…ご家族皆様が寂しがられますよ。」


「そんな事ある訳ないでしょ。ルイとソフィアが行くんだもの。それで十分よ。」

アリスの兄であるルイは他国から嫁いだソフィアと既に結婚しており子供もいる。

だから、この国は安泰なのだ。もう次の次の王まで決まっているんだから。

不仲の両親は私の事なんてどうでもいい。

私は二番手。いいや、兄の子が産まれてからは二番手どころでもない。

私の居場所はこの王宮にはない。

アリスは膝を抱え込んで顔を埋めた。

そんなアリスを見てレイは心配そうに表情を歪めた。