魔法使い時々王子

温室に入った途端、甘い花の香りと湿気が包み込む。
アリスが一歩進んで花を指さし、殿下に紹介しようとしたその時――

「青もいいが……赤い方が、あなたには似合いそうだ」

アルフィはそう言って、軽くアリスの腰に手を添えた。

「……っ」

瞬間、シドが一歩踏み出す。

「申し訳ありません、殿下。こちらでは過度な接触は“王宮礼節規定”に抵触いたします。ご存じなかったかと存じますが」

声は穏やかだが、魔力が微かに周囲の空気を震わせていた。

アルフィは手を引き、乾いた笑みを浮かべた。

「ふむ、異国のしきたりは厳しいものだな。謝罪しよう。」

その直後、シドは静かに指を一本、アルフィの背後で動かす。
風に紛れるほどの低い声で、呟く。

「――この数分のやり取りを、曖昧に」

薄い霧がアルフィの記憶に差し込む。
彼はまるで何事もなかったように、次の部屋への案内を求めた。