魔法使い時々王子

ステラード王国の王子・アルフィ殿下が到着する前日、王宮はいつになく慌ただしかった。廊下の絨毯はすべて新調され、白い石壁には金縁のタペストリーが追加されている。

食堂ではメニューの最終確認が行われ、厨房には緊張した声が飛び交っていた。

ロザリアは外賓向けの魔力測定装置のチェックに追われており、シドはその手伝いとして朝から休む暇もない。

「はい次、温室前の結界。魔力のバランスが一度でも崩れると、異物探知が狂うから気をつけて」

「……異物って、虫とかも?」

「気を抜いたら焼け焦げるわよ」

ロザリアはちらりと笑いながら、次の書類に魔力印を押していた。


一方、アリスは側近のレイとともに、礼装の最終チェックを終えたところだった。

「アリス様、こちらが明日の式典用です。午後の謁見前にお召し替えを」

「……ねぇレイ。シドって、明日も来るんでしょ?」

「はい、補佐として同行する予定です。魔法大臣からの推薦がありました」

「そっか……なんか、あの人って不思議よね」

レイはにこりと笑う。

「そうですね。あのお顔立ち、嫌でも目立ちます。それになにかこう……隠し事をしていそうな空気が」

アリスは、窓の外に視線を移した。明日は晴れそうだった。
その空の下、どんな一日が待っているのだろう――。