魔法使い時々王子

ノエルが用意してくれた馬車に、アリスとルーナ、リト、ローズが乗り込んだ。

ダリウスは自分の馬に跨り、馬車の後を追ってくる。

王都を離れ、しばらく森の中を進んでいく。

やがて馬車がゆっくりと速度を落とした。

「着きました」

ノエルの声に、アリスは窓の外へ視線を向けた。

そこには、緑豊かな森の中に佇む小さな宮殿があった。

王宮と比べると、ずっとこじんまりとしている。

けれど、どこか温かみがあり、とても居心地の良さそうな場所だった。

庭には小さな畑があり、その周りを何羽ものカモがのんびりと歩いている。

「わぁ……素敵」

アリスは思わず声を漏らした。

その時、宮殿の前に一人の女性が姿を現した。

「ようこそ、アヴェリアへ」

アルシエラだった。

「お待ちしていましたよ。さぁ、中へ入りましょう。お茶にしましょうか」

アルシエラは優しく微笑んだ。

そして、リトの姿を見つけると、嬉しそうに目を細める。

「リトがここへ来るのは久しぶりねぇ」

リトは何も答えず、そのまま宮殿の中へ入っていった。

「まぁ……相変わらずね」

アルシエラは小さく笑った。

宮殿の中へ入ると、すでにお茶とお菓子が用意されていた。

皆でソファへ腰掛ける。

室内には落ち着いた色合いの家具が置かれ、壁には美しい絵画が飾られている。

華美ではないが、どれも趣味がよく、アヴェリア宮殿の穏やかな雰囲気によく馴染んでいた。

アリスはテーブルに置かれた紅茶へ手を伸ばしかけた。

けれど、その前にアルシエラへ向き直る。

「アルシエラ様。あの夜は、助けていただいてありがとうございました」

そう言いかけたところで、アルシエラは静かに首を横に振った。

「その話は、もうよいのです」

「え……?」

アルシエラは微笑んだ。

「ここは休暇を過ごすための場所ですもの」

そして、窓の外へ視線を向ける。

「いつもの日常は、ひとまず王宮へ置いてきなさい」

「……」

「ここでは、心を休ませることだけを考えればいいのです」

アルシエラは庭を指差した。

「庭へ出て、日光を浴びるのもよし」

少し笑って、

「昼寝をするのもよし」

そして、遠くに見える湖へ視線を向けた。

「ヨットに乗って、湖の波に揺られるのもよし」

そう言って、アルシエラは優しく微笑んだ。

「ここにいる間くらい、何も考えなくていいのですよ。アリス」

その言葉に、アリスの胸の奥がふっと軽くなった。